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スーダン

スーダンのデモ鎮圧にアラブ諸国の影 UAE製の軍事車両や財政支援が...

2019年6月10日(月)16時15分
ジャスティン・リンチ、ロビー・グレイマー

タイヤを燃やしてバリケードを張るデモ隊(6月3日、ハルツーム) REUTERS

<民主化デモを軍部が強制排除し死者多数。アメリカの介入がないまま、スーダンが崩壊寸前となっている。訪れるはずの「春」がやって来ない理由>

スーダンが揺れている。今年4月、30年に及ぶ独裁支配を続けたバシル大統領が軍部のクーデターによって失脚し、スーダン民主主義の始まりかと楽観的なムードが漂ったのもつかの間。この国は今や、崩壊寸前だ。

6月3日、首都ハルツームで軍事評議会に対し民政移管を求めて座り込みをしていた民主化デモを、治安部隊が強制排除した。市民側に近い医療団体によると、死者は100人を超えたという。現地で撮影された映像には、兵士が無防備な市民を攻撃する様子が映る。

準軍事組織の「即応支援部隊」が市民をナイル川に遺棄したとの目撃情報もあり、実際に川からは40人の遺体が見つかったという。インターネットはつながりにくい状態が続く。

スーダンでは昨年12月、不況や貧困への不満から市民が散発的に抗議活動を続けていた。これがスーダン専門職組合(SPA)主導の全国規模の民主化デモに発展。今年4月にバシルは軍部のクーデターで排除されたが、独裁体制自体は今も残る。

当初、暫定軍事政権は市民側への権力移管を約束していた。しかし実行に移されないため、市民は軍本部前で座り込みを続けていた。今月に入り、即応支援部隊がデモ隊への攻撃を開始し、ついに6月3日の強制排除に至った。街では同部隊が巡回を続けており、市民は外出もままならない。

無秩序状態の背景にちらつくのは、バシル政権崩壊で生じた権力の空白に付け込むアラブ諸国の影だ。サウジアラビアとエジプト、アラブ首長国連邦(UAE)のデモ排除への関与は明らかで、米ニューヨーク・タイムズ紙は、現地でUAE製の軍用車両を確認している。4月には、サウジアラビアとUAEがスーダンに30億ドルの財政支援を約束。即応支援部隊を率いるモハメド・ハムダンと、軍事評議会のアブデル・ファタハ・ブルハン議長は最近、エジプトなどを訪問したばかりだ。

湾岸諸国の勝手な都合

米政府関係者の中からは、暴力を非難するだけで具体的な対策を取らないトランプ政権への不満の声も聞こえる。アメリカの介入がないまま、アラブ諸国が好き勝手にスーダンの空白に付け込んでいるという声もある。

「サウジアラビアやUAEやエジプトは、民主主義という価値観を持っていない。スーダンの今後に求めているものは、アメリカが求めるそれとは懸け離れている」と、ジョニー・カーソン元米国務次官補は言う。

エジプトには、スーダンでのイスラム勢力の台頭や民主化の動きを抑えたいとの思惑があるとみる専門家もいる。それらがエジプト政府を脅かしかねないからだ。

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