最新記事

香港

香港を変える「第3の方法」ゼネスト

2019年7月8日(月)11時55分
ドミニク・チウ、ティファニー・ウォン

香港返還記念日(7月1日)のデモで機動隊と衝突する市民 THOMAS PETER-REUTERS

<市民が街頭に繰り出すデモ以上に、当局が脅威を感じるのは非暴力の「労働者の力」。世界を驚かせたデモの裏側で、1967年以来となるストが実施されていた>

香港の実業界は基本的に保守的で慎重だ。しかし、デモ隊と機動隊の激しい衝突を世界中が見守るなか、1000以上の中小企業や商店が香港では約50年ぶりとなるゼネストを実施した。

6月9日にある小さな配送サービス業者が、香港立法会(議会)で逃亡条例改正案の2回目の審議が行われる12日にストを実施すると宣言。それに続いてレストランや書店、食料品店、カフェなどが次々に、当日は営業をやめてデモに参加すると表明した。

短期的には、ストの影響は小さかった。しかし、抗議の新しい形が広がりを見せたことは、香港市民が中国政府に抵抗する有力な手段になり得るかもしれない。

香港で大規模なゼネストが最後に行われたのは、イギリスの統治下にあった1967年のこと。皮肉にも、中国共産党が扇動した抗議活動だった。

1967年の夏、相次いだ労働争議が暴動に発展した。親共産主義の活動家が6万人の労働者を動員してストライキを行い、2万人の学生が授業をボイコットした。暴徒が手製の爆弾を市内各所に仕掛けるなど、12月に沈静化するまでに51人が死亡、数百人が負傷した。

この暴動で香港市民は労働ストに嫌悪感を抱き、中国本土の政治的介入に警戒心を募らせた。その傾向は今日まで続いている。一方で、イギリスの植民地政府は前例のない社会改革を余儀なくされ、公共住宅の整備や労働審判制度の導入などが進み、労働者の福祉が向上した。

今回、香港労働組合連盟は加盟する約20万人にストへの参加を呼び掛けた。香港最大の教員組合は市内全域に授業のボイコットを呼び掛け、4000人の教員が応じた。業界最大手のキャセイ・パシフィック航空など、バスや航空会社の組合もストを実施した。

ただし、ゼネストとしてはかなり小規模だった。草の根で始まって断続的に実施されたことを考えれば無理もない。香港の企業の大多数は、通常どおり操業した。ストを実施した会社や商店の大半は小・中規模だ。中小企業は香港の全事業者の98%を占めるが、従業員数は労働人口の半分足らずだ。

経済活動停滞のダメージ

それでも6月12日の出来事は、持続的な非暴力運動の先駆けになるかもしれない。平和的な抗議デモは政府に無視されやすく、それでいて暴動は非難され鎮圧される。一方で、幅広い業界から労働者が集まる大規模なゼネストは、権力者に建設的な対応を余儀なくさせる第3の方法になり得るのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中