トランプの対中追加関税、ターゲットは中国とFRB
Why More Tariffs?
貿易摩擦をエスカレートさせ利下げとドル安効果を狙うトランプだが LEAH MILLIS-REUTERS
<中国だけでなくFRBにも圧力を――。「思慮深い」大統領は一石二鳥をもくろむが......>
ドナルド・トランプ米大統領はまたしても中国からの輸入品に関税を課す気らしい。中国との貿易交渉に進展がなかったようで、9月1日から中国からの輸入品に新たに10%の関税を課すという。
8月1日にツイッターで発表したが、側近の代筆かと疑うようなつぶやきもあった(「包括的な合意に向け前向きな貿易交渉を継続していきたい。両国の未来は輝かしいものになるだろう!」など)。追加関税はこれまで非課税だった3000億ドル相当が対象で、既に対象となっている2500億ドル分については引き続き25%が課税される。
それにしても妙なタイミングだ。米経済はこのところ弱含みで、債券市場では長期金利が短期金利を下回る「長短逆転」が起きている(景気後退の予兆)。GDPの伸びは鈍化気味で、設備投資も落ち込んでいる。
トランプの対中貿易戦争も(厳密にどの程度かは不明だが)災いしているというのが、大方の見方だ。7月末にFRBが利下げに踏み切った際、ジェローム・パウエル議長は利下げ理由の1つにトランプの貿易戦争をほのめかした(パウエルに言わせれば、利下げは「世界経済の低迷と貿易摩擦から予想されるリスクに備える」ためだとか)。
トランプが追加関税を発表して貿易摩擦に拍車を掛ければ、その結果アメリカでは輸入品が値上がりして消費者の負担が増し、企業のサプライチェーンは混乱する。米経済全体に(わずかではあっても)悪影響を及ぼすのは必至だ。彼の狙いは一体何なのか。
トランプは中国との報復合戦が経済に及ぼす影響には無頓着で、あくまで戦い抜くつもりなのかもしれない。それは、追加関税を負担しているのは中国人であり、中国との貿易戦争でアメリカが失うものはない、という公式発言からもうかがえる。
世界経済を危険にさらす
追加関税によってFRBに今回以上の利下げを迫ろうとしている可能性もある。多くの投資家は(トランプも)FRBが積極的な利下げを続けていく意向だとパウエルが示唆するのを期待していた。ところがパウエルは、追加利下げは景気見通しが悪化した場合のみになると示唆し、「貿易摩擦」を政策立案者が注視すべき重要な要因の1つ、とだけ述べた。トランプが摩擦をヒートアップさせたのはその翌日だ。