最新記事

サイエンス

雨が降ると植物はパニック状態になっていた:研究結果

2019年11月12日(火)19時20分
松岡由希子

水は、植物が生きるために不可欠なものだけれど...... Martyna Broda Owen Duncan and Harvey Millar image courtesy of UWA

<西オーストラリア大学などの研究チームが「雨が植物に触れると、植物は複雑な化学的信号を発し、雨から身を守るための備えをする」ことを発見した......>

水は、植物が生きるために不可欠なものである。しかしながら、植物は雨をさほど歓迎しておらず、むしろこれによって「パニック状態」になることが明らかとなった。

「雨が触れると、植物は化学的信号を発し身を守るための備えをする」

西オーストラリア大学やスウェーデンのルンド大学らの国際研究チームは、雨に対する植物の反応について研究し、「雨が植物に触れると、植物は複雑な化学的信号を発し、雨から身を守るための備えをする」ことを発見した。

この研究論文は、2019年10月29日、米国科学アカデミーの機関誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で公開されている。

研究チームが植物に水を散布してその作用を観察したところ、MYC2タンパク質によって連鎖反応が起きていることがわかった。MYC2タンパク質が活性化すると、266個の遺伝子が動きだして自衛の準備に入るとともに、この信号が葉から葉へ伝播して、様々な防御作用を引き起こしたという。

雨は病原菌を拡散させる主な要因でもある

それではなぜ、植物は雨が降るとパニック状態に陥るのだろうか。雨粒には、微生物やウイルス、真菌胞子が含まれており、最長10メートルの範囲であらゆる方向に広がる。つまり、雨は、植物が生きるために不可欠である一方、病原菌を拡散させる主な要因でもあるのだ。

雨が降ると、葉から葉へ伝播する信号と同じものが、空気を通して周囲の植物にも伝達される。その役割を担っているのが、植物ホルモンのひとつ「ジャスモン酸」だ。

研究論文の共同著者である西オーストラリア大学のハーベイ・ミラー教授は、このメカニズムについて「周囲の植物が防衛作用を働かせれば、疫病が拡散しづらくなる。つまり、周囲の植物に"警告"を伝えることは植物にとって得策である」と解説している。

深刻な事態を引き起こすリスク

植物は、危機が発生しても動くことができないため、複雑な信号システムによって身を守ろうとする。緊急時の植物間コミュニケーションについては、米コーネル大学らの研究チームが「植物には危険な外敵の存在を周囲に知らせる『標準語』がある」ことを明らかにしている

雨は、植物にとって死に直結する要因とはいえないまでも、深刻な事態を引き起こすリスクはある。それゆえ「パニック状態」に陥るようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

24年の世界石油需要見通し引き下げ、生産予想は上方

ビジネス

AI、政策金利を決める判断力はない=シンガポール中

ワールド

米政府、ファーウェイ向け半導体などの製品輸出許可取

ビジネス

米リフト、第2四半期見通し予想上回る 需要好調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中