最新記事

スリランカ

スリランカが社会分断を克服して中国依存から脱出する道

IS SRI LANKA THE NEXT ARGENTINA?

2019年11月30日(土)14時00分
アルビンド・スブラマニアン(元インド政府首席経済顧問)

ラジャパクサ新大統領は社会の亀裂を修復できるか DINUKA LIYANAWATTE-REUTERS

<イデオロギー、民族、言語、宗教......幾重にも分断された元優等生国家の修繕が新大統領に託された>

インド洋の島国スリランカは大きな政治的変化を迎え、マクロ経済が不安定化するリスクが高まっている。そのリスクを減らすために最も重要なのは、11月18日に就任したゴタバヤ・ラジャパクサ新大統領がよい意味で期待を裏切り、社会の全ての層を取り込む政治を実践することだ。

スリランカには、第三世界の優等生だった時期もあった。1948年に英連邦内の自治領セイロンとして独立してしばらくの間は、貧困、乳幼児死亡率、初等教育などの指標で近隣のインドやパキスタン、バングラデシュを上回る進歩を成し遂げ、多くの途上国から羨望のまなざしで見られていた。

しかし、この数十年は社会の分断と紛争の影響により、慢性的にマクロ経済の不安定化にさいなまれるようになった。この問題が生まれる原因は、結局のところ経済のパイをどのように分配するかをめぐる争いにある。それを解決できない限り、持続不可能なレベルの財政赤字、過剰な対外債務、インフレ、為替の不安定化などの問題が避けられない。

アルゼンチンを含むラテンアメリカ諸国では、都市部と公務員への利益誘導などが問題の原因になった。サハラ以南のアフリカ諸国では、民族紛争や地域対立が原因の場合が多い。一般論として言えば、ハーバード大学ケネディ政治学大学院のダニ・ロドリック教授(国際政治経済学)が指摘するように、負担を社会で分かち合う仕組みが機能していない国では、外的なショックの直撃を受けたときにマクロ経済が不安定化する。

スリランカの社会には、イデオロギー、民族、言語、宗教など、さまざまな面で激しい分断がある。そもそもは、1956年の法律でシンハラ語が唯一の公用語と定められたことにより、社会に深い亀裂が生まれたと言っていいだろう(1987年にタミル語も公用語と規定された)。

1970年代には、共産主義勢力が武装蜂起し、1980年代以降は、タミル人過激派勢力と政府軍の間で苛烈な内戦が続いた。泥沼の内戦は2009年にようやく終結したが、今度は宗教による分断が前面に現れ始めた。今年4月、イスラム過激派による連続爆破テロが多くの人命を奪ったことは記憶に新しい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダの原油パイプライン拡張完了、本格輸送開始

ビジネス

豪NAB、10─3月キャッシュ利益13%減 自社株

ワールド

ウクライナ、今冬のガス貯蔵量60%引き上げへ

ワールド

ソロモン諸島、新首相に与党マネレ外相 親中路線踏襲
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中