最新記事

米イラン危機:戦争は起きるのか

米イラン危機、次の展開を読む――トランプはどんな代償を払ってでも勝利を目指す

NOT AFRAID TO WAG THE DOG

2020年1月17日(金)15時40分
サム・ポトリッキオ(本誌コラムニスト、ジョージタウン大学教授)

ソレイマニの葬儀には数万人が押し寄せた(1月6日、テヘラン) MORTEZA NIKOUBAZLーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<軍事的な緊張は沈静化に向かったように見えるが、今回の危機はトランプの危険度を改めて浮き彫りにした。本誌「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集より>

ちょっと懐かしい映画が、今回の騒ぎを説明付けるカギになるかもしれない。その映画とは、1997年公開の風刺的コメディー『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』。ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンが共演し、予言的な作品として絶賛された。

20200121issue_cover200.jpg

粗筋はこう──選挙戦を控えた大統領のセックススキャンダルから国民の目をそらすために、政界のもみ消し屋がハリウッドの敏腕プロデューサーと手を組み、アルバニアとの戦争をでっち上げる。

封切りから1カ月後、映画は現実となる。当時のビル・クリントン大統領と若いインターンのセックススキャンダルが発覚。しかも98年8月に、クリントンはスーダンの製薬工場をミサイル攻撃した。

さらにクリントンは、弾劾訴追採決直前の98年12月にイラクを空爆。99年春には、映画の中では嘘の戦争相手だったアルバニアと国境を接する旧ユーゴスラビアを空爆した。

この映画が長いこと愛されたのには大きな理由がある。反クリントン勢力が、大統領は自分の不道徳な行為から世間の目をそらし、その地位を守るために、愛国の名の下にアメリカ人を結集させるという「ワグ・ザ・ドッグ」(主客転倒の意)な行為をしていると非難し続けたことだ。

イラン革命防衛隊の精鋭「クッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官を殺害するというドナルド・トランプ米大統領の衝撃的な決定も、彼が下院で弾劾訴追された直後であり、上院での弾劾裁判の直前だ。『ワグ・ザ・ドック』は製作から20年以上たっても全く古びない。

政治が芸術を模倣するという皮肉な現象は、これだけにとどまらない。リアリティー番組のスターだったトランプは2011年から12年にかけて、バラク・オバマ大統領(当時)が12 年11月の大統領選で再選を果たすためにイランを攻撃するだろうと執拗に主張していた(実際には行っていない)。

そして今、自身が再選を目指すトランプは、支持率が低下するなかでアメリカの最大の敵に対し、力と精度を誇る強力な殺人兵器であるドローンを差し向けた。なんとも眉唾もののタイミングだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中