最新記事

動物

イヌ特有の能力と思われていた「取ってこい」遊び、オオカミの子もできた

2020年1月29日(水)17時30分
秋山文野

「取ってこい」遊びの能力は、イヌの先祖であるオオカミにはないと考えられていた rogertrentham-iStock

<投げられたボールを追いかけ、くわえて持って帰ってくる遊び、オオカミでも同様のことができるのか......>

イヌは餌がもらえなくてもヒトとのコミュニケーションに沿って行動できる

投げられたボールを追いかけ、くわえて持って帰ってくる「取ってこい」遊びがイヌは大好きだ。「フェッチ」といわれるこの能力は、オオカミがヒトに飼いならされてイヌになってから生まれたもので、先祖であるオオカミにはないと考えられていた。

投げられたものを追いかける、という部分は狩りに見立てた遊びのひとつだが、投げられたものをヒトのところまで持ち帰るには、ヒトが発した指示を理解し、実行する社会的コミュニケーションの能力が必要になる。

ごほうびの餌をもらえる場合には、ヒトの発した指示通りに行動できる動物もいる。しかし、事前に訓練を受けている上に、よく見知ったヒトから指示を出される、などいくつかの条件がある。イヌは餌がもらえなくてもヒトとのコミュニケーションに沿って行動することができる。

オオカミでも同様のことができるのかという課題に、ストックホルム大学の行動生物学者、クリスティーナ・ハンセン・ウィート氏らが取り組んだ。研究成果は米科学出版社セル・プレスが発行するオープン・アクセス・ジャーナル「iScience」に発表された。

13匹のオオカミの子のうち、3匹がボールを取ってきた

ウィート氏らは、オオカミがヒトの発した社会的キュー(意志や感情を示す手がかり)を理解する能力を持っているのか研究するため、3年にわたって欧州の野生動物公園から連れてきたハイイロオオカミの子を13匹育てた。3時間おきに授乳し、寝袋で一緒に眠ってオオカミとヒトとの間に関係性を築いた。(オオカミの飼育と実験方法は、すべてスウェーデンの法律を遵守し、ウプサラ大学の倫理委員会から承認を得ているという)。

オオカミの子が自発的に行動したのかどうかを確かめるため、事前に取ってこいを訓練したわけではなく、また実験では普段は接していない見ず知らずの人物から取ってこいの指示を出すようにした。

13匹のオオカミの子には、世界のミュージシャンから名をとって「オジー」「ビョーク」「ヘンドリックス」といった名前がつけられた。取ってこい能力の試験は、生後8週の段階で行われた。オオカミの子たちにとっては見ず知らずの人物である試験担当者がテニスボールを投げ、くわえて戻ってくるよう呼びかける。オオカミの子の行動は、「ボールに興味を示さない(スコア1)」から「試験担当者の呼びかけに反応してボールを持ってくる(スコア5)」まで5段階で評価された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中