最新記事

新型肺炎:どこまで広がるのか

アジア人を「病気持ち」と見なす欧米の差別意識は200年以上前から

2020年2月14日(金)15時45分
ジェーン・C・フー

イタリア在住ストリートアーティストが描いたローマ市街の「#私はウイルスじゃない」という壁画。「無知という病気が広がっている」と警告 GUGLIELMO MANGIAPANE-REUTERS

<新型コロナウイルスで解き放たれ、ウイルスよりも急速に広がっている欧米諸国のアジア人差別。その背景には長い歴史と根深い偏見があった。本誌「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集より>

パニックとはこうして始まるものなのか。
20200218issue_cover200.jpg
米疾病対策センター(CDC)が、アメリカで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたと発表したのは1月21日のこと。すると1時間もしないうちに、筆者の友人がフェイスブックに書き込んだ。中国人が「大勢」いる会議から帰った家族の体調が悪い──。

それから数日のうちに、どうやら感染源は、中国人が好む「普通でない」食品を扱う市場らしいという報道があふれた(専門家の間では現在この説を疑問視する声が上がっている)。筆者の友人が乗った飛行機では、ある年配の女性が、マスクを着けたアジア系女性がいるのを見つけてヒステリーを起こしたという。

どうやら新型ウイルスよりもずっと急速に、アジア人に対する差別が広がっているようだ。

2月7日の時点で、アメリカで確認された新型ウイルスの感染者はわずか12人。それなのに「アジア系だからといって人種差別的なジョークを言われた」という不満の声が全米から寄せられている。「イヌを食べるんでしょと言われた」と、ボストンのある学生は地元紙に語った。アリゾナ州立大学の学生は、白人クラスメイトに避けられていると語った。

イギリスとオーストラリアでも状況は同じだ。カナダでは、感染者が7人しか確認されていないのに、トロントのジョン・トーリー市長が、中国系市民に対する差別をやめるよう呼び掛ける声明を出した。韓国ではソウルのレストランが「中国人は出入り禁止」と貼り紙を出した。そして世界の航空各社が、中国本土行きの便を相次ぎ欠航にしている。

パンデミック(世界的な大流行)なら、こうした対応は分からなくもない。しかしこれまでのところ、新型コロナウイルスはそこまで猛威を振るっていない。それに感染者の多くは、一般的なインフルエンザと似た症状を示す程度で、自宅で回復している。

それなのに、アジア系全般を「病気持ち」扱いする風潮はじわじわと広がっている。

カリフォルニア大学バークレー校は1月末、学生たちを安心させようと、新型コロナウイルスのニュースを見て「不安」や「人付き合いを控えたい」と感じるのは「普通の反応」だと公式インスタグラムに投稿した。だが問題は、「アジア系に見える人との交流に不安を感じ、そんな自分に罪悪感を覚える」という「外国人嫌悪」も「普通の反応」だと書いたことだ。同大は卒業生から抗議を受け、謝罪に追い込まれた。

【参考記事】今年の春節は史上最悪、でも新型肺炎で「転じて福」となるかもしれない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2日に3兆円超規模の円買い介入の可能性、7日当預予

ワールド

OECD、英成長率予想引き下げ 来年はG7中最下位

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中