最新記事

アメリカ大統領選 中国工作秘録

中国反体制派の在米富豪に、怪し過ぎる「共産党スパイ」疑惑

THE SUSPICIOUS MR. GUO

2020年11月20日(金)17時20分
ニック・アスピンウォール(ジャーナリスト)

郭文貴(左)は元トランプ政権高官のスティーブ・バノンと意気投合 Carlo Allegri-REUTERS

<真意を疑われても仕方のない経歴と問題行動、そしてアメリカで見つけた「同志」とは──。本誌「アメリカ大統領選 中国工作秘録」特集より>

アメリカで中国共産党幹部の腐敗を暴くと息巻く元政商の郭文貴(クオ・ウエンコイ)。その郭が9月、中国を逃れてきた反体制派や、彼らを支援する在米活動家を「共産党のスパイ」だとするリストを発表した。「裏切り者を抹殺しよう」と、郭はオンライン動画で葉巻を片手に訴えた。「始めよう。まずはこの売国奴たちを始末しよう」
20201110issue_cover200.jpg
その数日後、テキサス州ミッドランドにあるボブ・フーの自宅前に、どこからともなく人が集まってきて、フーを批判するようになった。フーはキリスト教福音派の牧師で、中国を逃れてきたキリスト教徒を支援する人権団体「チャイナエイド」の創設者であり、中国系コミュニティーでは敬意を集める存在だ。

フーの家の前に集まった人々は、自分の素性も、どこから来たかも言わない。ただ、郭の呼び掛けに応じて来たことだけは明らかにした。この動向にはFBIも注視し、マルコ・ルビオ上院議員やテッド・クルーズ上院議員ら共和党の有力議員も批判の声を上げた。その一方で、郭の狙いは何なのか考えあぐねる声が上がっている。

「これは潤沢な資金と的確な指揮に基づき、きちんと連携が図られた高度な中傷活動だ」と、フーは語る。地元当局によって家族と一緒に保護されたフーは、郭の背後には中国共産党がいるに違いないと主張する。「郭文貴はロビン・フッド気取りで、傭兵を組織し、世直しをしているつもりになっている」

中国反体制派の間で、「実はあいつは党の回し者だ」という告発は珍しくない。中国共産党は一党独裁を脅かすとみられる組織をつぶすために、その組織の内部に浸透することに相当な時間と資金とエネルギーを費やしてきたから、当事者たちが疑心暗鬼に駆られるのは無理もない。

それに郭は、その真意を疑われても仕方のない経歴の持ち主だ。中国時代の郭は、党幹部とのパイプを駆使して不動産業で巨万の富を築いた。ところが2015年に庇護者だった馬建(マー・チエン)国家安全省次官(当時)が失脚すると、自らの危険を察してアメリカに移住。以来、中国共産党の腐敗を暴く正義の味方というイメージづくりに励んできた。

「本気で私を脅すつもりだ」

そのアメリカで郭が見つけた「同志」が、ドナルド・トランプ米大統領の元側近スティーブ・バノンだ。2人は、新中国連邦なる「在外政府」の樹立を宣言したほか、GTVメディアグループを立ち上げて、新型コロナウイルスに関する偽情報や、民主党の大統領候補ジョー・バイデンの息子ハンターについての陰謀論をまき散らしている(バノンは8月に詐欺容疑で逮捕されたとき、郭のヨットで豪遊していた)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中