最新記事

民主化

タイ政府、王室への不敬罪2年ぶりに適用へ 天下の宝刀抜き、反政府運動は新局面へ

2020年11月25日(水)20時09分
大塚智彦

2年ぶりに王室への不敬罪が適用されたが、25日もバンコクでは王室改革への声がこだました。REUTERS/Jorge Silva

<批判が許されない王室への改革を求めるデモ隊に明日は来るか?>

学生や若者を中心とした反政府運動が続き、社会不安が高まっているタイで11月24日、ワチラロンコン国王や王室への批判、誹謗を許さない「不敬罪」の適用方針が明らかになった。

最高で禁固15年というタイの厳しい「不敬罪」は「不敬」の適用範囲が必ずしも明確でなく、時の政権や治安当局による「恣意的運用」が人権侵害や言論統制につながるとして人権団体やメディアなどから批判の声が長年上がっていた。

しかしプラユット政権は過去2年間、この「不敬罪」の適用を事実上控えてきた。プラユット首相は「不敬罪適用を一時中断するというのはワチラロンコン国王の配慮である」として国王自身がそうした判断を政府に伝えていたことを明らかにしている。

ところが24日までに治安当局は反政府の集会やデモを主催してきたとして人権派弁護士のアノン・ナンパ氏や活動家パリト・チラワク氏ら少なくとも6人に出頭を要請。不敬罪での訴追が待ち構えているという。BBCなどが25日に伝えた。

憲法改正を国会否決でデモ激化

今年7月から本格化した反政府運動は①プラユット首相の退任②国会の解散③憲法改正④王室改革などを主要な要求として掲げて実施されてきた。

このうち王室改革を可能にする憲法改正に関しては国会が臨時議会を招集して協議を続けてきたが、18日に保守派の反対で否決されたことを受けてデモが再度激化していた。

さらに若者を中心にしたデモ隊は1年の大半をドイツで過ごしている現在のワチラロンコン国王が王室財産の管理や国王権限などの面で「国民無視」を続けている、として「不敬罪」が適用されている頃には考えられない直接的な「国王批判」「王室批判」を大々的に展開。内外のメディアもそれを「歴史の節目」として報道してきた。

国王もタイ滞在、世論に配慮か

こうしたタイ世論に配慮したのか、10月に行事参加のためにドイツからタイに帰国したワチラロンコン国王はその後タイ滞在を続けている。

そればかりか王室支持の国民の前に姿を現して直接言葉を交わしたりするなどの「異例」の交流を続けている様子が、これもメディアで大きく取り上げられる事態になった。

11月1日には支持者たちの中に姿を現して「(デモ隊を含めた)全ての人を同様に愛している。タイは歩み寄りの国だ」とタイのマスコミの問いかけに直接応じるなど異例の対応で事態沈静化を図った。

前国王は国民から絶大な支持と信頼

タイでは国王は「批判を許さない絶対的存在」として国民の間には存在しているが、それは2016年10月に死去したプミポン国王までのことだった。

プミポン国王は若いころからタイ各地を歴訪して、膝を地につけて農民や高齢者へ同じ目線で話しかけるなど、まさに「国民と共にある国王」を体現。広くタイ国民から尊敬と支持、信頼を集めていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米コロンビア大、反イスラエルデモ参加者が建物占拠 

ワールド

G7エネ相、石炭火力35年までの廃止で合意 日独に

ビジネス

ユーロ圏成長率、第1四半期は予想上回る伸び 景気後

ビジネス

インタビュー:29日のドル/円急落、為替介入した可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中