最新記事

火星探査

火星の深部構造が探査機インサイトからのデータで判明 予想より薄い地殻と巨大なコア

2021年8月2日(月)18時00分
青葉やまと

プロジェクトに立ちはだかる困難を越えて

華々しい成果の一方で、インサイトの火星探査ミッションは困難にも見舞われた。マーズクェイクの収集と並んで計画のもう一つの柱となっていたのが、HP3(熱流・物理特性パッケージ)による温度データの解析だ。長さ45センチほどの棒状の測定装置を地中5メートル弱の位置にまで徐々に打ち込み、地中の熱量の変化を測定する計画だった。

「もぐら」を意味するモールの愛称で呼ばれていたが、モールと周囲の土の間に想定していたような摩擦を得ることができず、打ち込んでも跳ね返ってしまう状態となった。モールは2年がかりで50センチほど進んだが、今年に入ってNASAは計画の断念を宣言している。マーズクェイクの観測成功の一方で、火星探査というチャレンジの難しさを象徴する出来事となった。

また、2018年末にインサイトが火星へと飛行した際、マーズ・キューブ・ワン(MarCO)と呼ばれる2機のキューブサット(小型衛星)が旅路を共にした。ピクサー映画に登場する孤独なロボットになぞらえ、NASAの職員たちはそれぞれウォーリーとイヴの愛称で呼んでいる。2機は小型・低予算のキューブサットの実証実験として、インサイトのEDL(突入・降下・着陸プロセス)中のデータをリアルタイムで地球に中継した。

NASAはすでに火星探査衛星(MRO)を運用しているが、MROは同一バンドの受信と送信を同時に行えないため、地球への中継に1時間ほどのタイムラグを生じる。これに対し、ウォーリーとイヴは着陸成功のデータと火星表面の画像をほぼリアルタイムで地上に中継することを可能とし、ミッションコントロールの一同を興奮に包んだ。キューブサットの実力を証明したウォーリーとイヴだったが、残念ながらその後広大な宇宙空間で行方不明となり、運用するJPL(ジェット推進研究所)は2機のミッション終了を宣言している。

こうした無念の経緯を経て、今回の火星の内部構造解明は明るいニュースとなった。研究者たちはさらに大規模なマーズクェイクによってより明確なデータを得られるのではないかと期待している。近くにありながら謎の多い火星の構造や形成過程の解明が今後もさらに進みそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中