最新記事

火星探査

火星の深部構造が探査機インサイトからのデータで判明 予想より薄い地殻と巨大なコア

2021年8月2日(月)18時00分
青葉やまと

火星の平原で、地震を「聞き」続けてきた NASA/CALTECH

<困難続きだった探査プロジェクトが、ついに著しい成果を挙げた>

NASAが2018年に火星に送り込んだ「インサイト(InSight)」は、火星の1点に留まる定置型の探査機だ。ここ2〜3年ほど火星の平原で、孤独に地震を「聞き」続けてきた。このほど地上の研究者たちがそのデータをもとに、火星の内部構造を推定することに成功した。

NASAがこのほど発表したニュースリリースによると、地殻は予想されていたよりも随分と薄いようだ。現在のところ、厚さ20キロと37キロの2つの可能性が提示されている。その層を抜けるとマントルとなり、地表から1560キロの深さまで続く。地球の場合は核と下部マントルの間に液状の層が存在するが、火星にはこれが存在しないことも確認された。高い断熱性を持つこの層がないという解析結果は、火星が急速に熱を失っている現象を説明するものともなりそうだ。

さらに火星最奥部まで進むと、中心には溶けて流体となったコアがあり、その半径は1830キロほどと見積もられている。従来の予想と比べ、数百キロほど分厚い数字だ。地球のコアの場合、中心部の内核は個体、外核が流体となっている。火星も同様の構成をしているかは、今後の研究で明らかになる予定だ。

火星で発生する地震は、マーズクェイクと呼ばれる。マーズクェイクによる地震波が火星内の層を通過・反射すると、各層の組成と厚みに応じて速度と波形が変化する。こうしたデータを収集・解析することで、このような火星の深部構造が明らかになった。

まるで「駐車場」 何もない平原で観測された貴重なサンプル

今年は探査機パーサヴィアランスが火星に降り立ち話題となった。同機は、かつて生命が存在した痕跡が残る可能性もある、科学的に興味深い地点で活動している。これに対しインサイトが降り立った地点は、「駐車場」と呼ばれるほど平らで何もない場所だ。わずかな揺れに耳を澄ませるマーズクェイクの観測には、むしろその方がうってつけだった。

・インサイトが火星に設置した観測機器の概要

NASA Mars InSight Overview


地殻の厚さの推定には、ドイツ・ケルン大学のブリジット・ナップマイヤー=エンドラン博士らの研究チームが携わった。博士は米サイエンティフィック・アメリカン誌に対し、火星には地球のようなプレートテクトニクスが働いていないと説明している。地殻の変動によりプレートが生まれては沈みと「リサイクル」されている地球に対し、火星では誕生初期に形成された地殻がほぼそのまま残っているのだという。

地球で感じられる地震は、このようなプレートテクトニクスの影響によるものだ。一方、地殻が1枚の巨大な板になっている火星の場合は、地殻が冷却されることで揺れが発生する。冷えてわずかに地殻が縮むことで岩石に割れ目を生じ、この際にマグニチュード4.0未満のわずかなマーズクェイクを生じる。地震波の一部は地下の各層に反射して再び地表へと戻されるが、インサイトはこれを観測することで火星深部のデータを収集している。インサイトに搭載の観測器「SEIS」は、原子レベルの揺れさえも記録できる超高感度の地震計を備える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中