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アフガンで再興するイスラム国が、「中国」を次のテロ標的に定めた必然

China: The New Jihad Target

2021年11月2日(火)17時17分
ノディルベク・ソリエフ(南洋理工大学・政治暴力・テロリズム研究国際センター上級アナリスト)
シーア派モスクでのテロ

少数民族ハザラ人が集まっていたシーア派モスクが自爆テロの標的に(クンドゥズ州、10月8日) AP/AFLO

<タリバン政権下で加速するウイグル人の取り込みとシーア派への攻撃は過激派組織からのメッセージだ>

10月8日、アフガニスタン北部クンドゥズ州にあるイスラム教シーア派のモスクで自爆テロが発生、礼拝中の少数民族ハザラ人70人以上が死亡、140人以上が負傷した。

間もなく過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」がオンラインの声明で犯行を認めた。実行犯は「ムハンマド・アル・ウイグリ」で、中国の要請に応じてウイグル人をアフガニスタンから追放する「ラーフィダ」(シーア派の蔑称)とイスラム主義勢力タリバンの政権を標的にしたという。

IS-Kが宗教的・民族的少数派を攻撃するのは珍しいことではない。タリバンが過激派反政府勢力から合法的国家への移行に取り組むなか、そうした少数派コミュニティーへの攻撃は、宗派抗争をあおり、未承認の新政権が国民に適切な治安を提供できるかどうかに疑問を投げ掛けることを狙ったものだ。

しかし、アフガニスタンのハザラ人社会を標的にすることを、中国のウイグル問題を引き合いに出して正当化しようとするのは異様で、理解に苦しむ。

今回の自爆テロの分析結果からうかがえるのは、IS-Kが従来あまり挑発的ではないとみられていた対中国戦略をより強硬路線に転換することを検討している可能性だ。さらにタリバンがウイグル人民兵を追放する意向を表明したことを、自らをウイグル人の新たな庇護者と位置付け、不満を抱くウイグル人民兵を戦力に迎える好機と捉えているようだ。

■「実行犯はウイグル人」

IS-Kは2015年、イラク・イスラム国とシリア・イスラム国が「ホラサン」地域(現在のアフガニスタン、パキスタン、イラン、中央アジアにまたがる地域の旧称)への拡大を発表したのを受けて誕生。当初のメンバーは、アフガニスタンとパキスタンのタリバンや国際テロ組織アルカイダといった武装組織出身の強硬派が中心だった。

IS-Kは当初からタリバンを戦略的ライバルでイデオロギー上の敵と見なし、タリバンの支配地域を攻撃し、メンバーの離脱を奨励してきた。20年まではアメリカの圧力のおかげで、アフガン政府軍とタリバンはIS-Kの脅威を封じ込めていた。

だが20年以降、IS-Kは新指導者シャハブ・アル・ムハジールの下、アフガン政府とタリバンに対する巻き返しの一環として現地での暴力をエスカレートさせている。国連の報告書によれば、8月半ばのアフガン政府崩壊以前の兵力は推定500~1500人。今年1~4月だけでアフガニスタン各地で77件の攻撃を実行している。

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