最新記事

朝鮮半島

「オンラインなら再会できるはず」──北朝鮮に残した「離散家族」の消息を求めて

N. Korean Family Reunion ASAP

2023年3月9日(木)15時27分
シャロン・キム・ソルダーティ(韓国系アメリカ人ライター)
SHARON KIM SOLDATI

筆者(上段右)の父(中段右)は米国在住 COURTESY OF SHARON KIM SOLDATI

<朝鮮戦争が生んだ「離散家族」は今や80~90代と高齢に。手遅れになる前に再会を実現させてほしいと願う家族たちの今>

1950年6月25日に北朝鮮が韓国に侵攻すると、数日後には米軍が北朝鮮への爆撃を開始した。私の父は韓国に逃れたが、身内が皆38度線を超えられたわけではない。彼の父親と兄夫婦と姪は、北朝鮮に取り残された。

ジョー・バイデン米大統領は1月23日、2017年以来空席だった北朝鮮人権担当特使に国務省高官のジュリー・ターナーを指命すると発表した。希望を新たに、父は上院がターナーの就任を承認するのを心待ちにしている。

頭上を飛ぶ米軍の戦闘機に怯えながら閉鎖された工場に逃げ込んだとき、父は9歳だった。寒い冬になると爆撃は激しさを増した。

「子供たちを連れて南に行きなさい」と、私の祖父は祖母に言った。「戦争が終わったら帰っておいで」

70年以上がたったが、祖父や親族からの音信はそれきり途絶えたままだ。

50年12月、父は最後の列車の1本に家族と飛び乗り、その屋根に登って故郷の沙里院市を離れた。列車が停まるたびに兄のジョングクが鍋を持って雪の積もった屋根から地面に降り、米を炊いた。

走る列車の屋根から大勢が落ちて死んだが、見ているしかなかったと父は言う。次兄は北朝鮮軍に徴兵されていた。彼の帰りを、妻と1歳の娘と父が家で待った。

朝鮮戦争で家族と生き別れになった人が、アメリカには何万もいる。その多くが、今では80~90代だ。

昨年12月、バイデン大統領は23会計年度の国防予算を決める国防権限法案に署名した。ここに盛り込まれた「離散家族再会法」は、北朝鮮に家族がいる国民との話し合いを国務長官に義務付けている。

1月、私は父が暮らすジョージア州アトランタ郊外の韓国系ベーカリーで父の仲間と会った。父が「食べなさい」と言って、くるみまんじゅうの皿を押して寄こした。

お年寄りたちは興奮気味に政府の動きを語った。離散家族全米連合ジョージア支部の顧問を務めるクリス・チョンは、ビデオ通話を使った再会への期待を口にした。「死ぬ前に実現できたら思い残すことはない」と言う彼は、平壌出身で現在77歳だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、FRB当局者は利下げに慎

ワールド

米、ウクライナ軍事訓練員派遣の予定ない=軍制服組ト

ビジネス

米国株式市場=ナスダック最高値、エヌビディア決算控

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中