最新記事
サイエンス

紅麹サプリの「プベルル酸」はどこから来た? 人為的混入、遺伝子変異の可能性は【東大准教授が徹底解説】

Search for Fatal Ingredient X

2024年4月10日(水)08時30分
小暮聡子(本誌記者)

小林製薬は社長らが3月29日に会見し謝罪した  時事通信

<謎多き「プベルル酸」が腎障害を引き起こした原因物質であると早計に同定すべきでないこれだけの理由>

小林製薬が製造する紅麹(べにこうじ)原料を含む機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人が腎機能障害を起こし、死亡例や入院例も出ている。問題の製品を製造したロットの解析で検出された「想定していない成分」について、現時点で考えられる可能性は何か。

newsweekjp_20240410015754.png東京大学大学院農学生命科学研究科で有機合成化学・天然物化学を専門とする小倉由資准教授(写真)に本誌・小暮聡子が聞いた。

◇ ◇ ◇

──「紅麹コレステヘルプ」は「悪玉コレステロールを下げる」とうたったサプリメントだが、紅麹にはコレステロールを下げる効能があるのか。

紅麹とは、自然界にあるベニコウジカビで穀物を発酵させた穀物麹のことです。例えば蒸した米にベニコウジカビを植え付け発酵させると、ベニコウジカビが栄養をもらって増えていき、赤いご飯のようなものになります。ベニコウジカビはその過程でモナコリンKという化合物を生産し、これにコレステロールを下げる効果があります。

モナコリンKは別名ロバスタチンとも呼ばれ、純度の高いものは医薬品として使われます。紅麹は同様の効果を狙ってはいるものの、モナコリンKの含有量が少ない混合物として、薬ではなく「機能性表示食品」のサプリメントに使われています。

日本で汎用される紅麹自体には食べても毒性はありません。少なくとも、これまでにそういった報告はありません。しかしベニコウジカビにもいくつか種類があり、一部のベニコウジカビは、モナコリンK以外にもシトリニンという有毒物質を一緒に作るため、例えばスイスでは紅麹を使うことは禁止されているようです。

──一部のベニコウジカビだけ毒も作ってしまうのはなぜなのか。

種類の異なるベニコウジカビの遺伝子は似ているはずですが、完全に同じではありません。同じカボチャでも西洋カボチャと東洋カボチャの違いのようなものと例えれば分かりやすいでしょうか。日本にいるベニコウジカビはシトリニンを作らないとされていますので、日本では安全に使えるものとして紅麹が何トンというレベルで流通しています。

少なくとも、これまでの長きにわたる利用実績と科学的に分かっていることを調べる限り、日本における紅麹は安全と言っていいでしょう。小林製薬も、これまでの調査で同社の紅麹からシトリニンは検出されなかったと発表しています。万が一にも紅麹の中でわれわれが知らない遺伝子変異が起きたのだとしたら衝撃的なのですが、可能性は低いと思います。現に多くの科学者は、変異ではなく別の菌の混入を疑っています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る

ビジネス

米金利維持が物価目標達成につながる=クリーブランド

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中