コラム

「日本を選んで失敗」...東京五輪関係者に甘く、留学生に厳しい日本政府のダブスタ

2021年04月28日(水)19時00分
西村カリン
日本人学生と留学生(イメージ)

JACOB AMMENTORP LUND/ISTOCK

<口では留学生を重視すると言いながら、実際は「水際対策」による入国拒否で留学生の未来を閉ざす政府に失望>

今年の3月24~25日、過去に日本留学をしていた各国の卒業生向けのオンライン国際カンファレンス『帰国留学生総会』が開催された。菅義偉首相は上映されたビデオメッセージ中で、こう述べた。

「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により日本を実際に訪れ、日本の多様な魅力を知っていただくことが難しい状況が続いています。そのようななか、日本の魅力を肌で感じる皆さまにより日本文化の紹介や日本語の普及といった活動はとりわけ意義深いものであります。また日本留学に関心を有する若者にとって皆さまからの情報は極めて重要です。今後もより多くの優秀な学生が日本留学を志していただけるよう皆さまのご協力をお願いいたします」

これは、非常に優しいメッセージであると思う。私も20年前からずっと日本に住んでいて、日本の良さや強み、魅力的な点を日々経験しており、フランスにいる家族や友人あるいは読者にそのことを伝えている。

けれども、菅首相のメッセージはタイミングに問題がある。こうしたことを伝えるには、今は最悪の時期だ。なぜなら1年以上前から、日本に留学する予定だった外国人の若者の多くが来日できていない。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を制御するために、日本は非常に厳しい水際対策を決めた。

それで効果があるのは間違いない。厳しい水際対策をしなかった、あるいはできなかった国々は大変な感染状況に陥った。母国フランスでは、新型コロナによる死者は10万人以上、なんと日本の10倍だ。だが、日本にはダブルスタンダードがあるのが大きな問題だ。国は、必ず開催したいと思っている東京オリンピックとパラリンピックに参加する選手やスタッフ、またはボランティアとマスコミのために特例措置の検討を進めているという。彼らは来日できるようになる。

一方で、留学生の新規入国の拒否は続いている。菅首相のビデオメッセージを聞いたら「大事にされている」と思われそうな留学生だが、実際には見捨てられている。

菅首相が言っていることと、国が実施する政策は大きく異なる。1年以上前から、いつ日本に行けるのかと、ずっと何の情報もなしに待っている外国人の学生はたくさんいる。諦めている学生もいっぱいいる。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボノルディスク、「ウゴービ」の試験で体重減少効果

ビジネス

豪カンタス航空、7月下旬から上海便運休 需要低迷で

ワールド

仏大統領、国内大手銀の他国売却容認、欧州の銀行セク

ワールド

米国務長官がキーウ訪問、ウクライナとの連帯示す
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story