World Voice

イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリアでコロナ禍に救急車を呼んだら


注射の打ち方のレクチャーなんてないし、説明もしてくれない。打てて当然だという感じで普通に渡してきた。
看護師など資格を持った人が注射を打ちに出張してくれるサービスもイタリアにはあることはある。
毎回出張費に25€かかるという。1日に朝晩2回で50€(約6,300円)かかる。だったら自宅で自分たちでどうにかしようという考えに容易に至る。

そうは言っても、打ち方を間違えて致死量20mlの空気が入ると人は死ぬというから怖い。
自分ではやはり出来ない。無理だと思ったので、マンションの我が家の1つ下の階に住むカラビニエーリ(国家治安警察隊)をしている夫の友人に電話をして、注射ができるか聞いてみた。
すると、エゼールチト(軍部隊)で、緊急の人命救助の視点などから注射の打ち方を習ったと言っていた。
自分で鏡を見ながら、臀部に筋肉内注射をうつ訓練をしたそうだ。

昨晩は夜勤中に家の近所であった強盗と住居侵入をした泥棒を逮捕し、パトロールを終えた後に、夫のお尻に注射を打ちに来てくれた。
ありがたい。万が一、自分一人でどうにかしないといけない場面がこの先起こりえるかもしれないので、この注射の打ち方を習ったのも、大変ためになった。

IMG_8906 2.JPG

消炎剤、非ステロイド系抗リウマチ薬のVoltarentと筋肉弛緩と抗炎症および鎮痛効果Muscoril -画像筆者撮影

| イタリアでの医療費とPCR検査の実態

イタリアでは、公的病院と民間病院の両方があり、公的病院の医療費は無料だが、外科手術をして入院する時、傷口を覆うガーゼやガーゼを止めるテープですら、自分たちで薬局で購入して持参しなければいけないのが驚きだった。
ガーゼのサイズは医師が指示したものを用意する。完全自腹。保険証を提出すれば割引となる。
アフターケアーなどは皆無だ。イタリア医療私費負担のうち36%が薬剤費。

公的病院では、検査や手術は予約が必要で、実際に治療が受けられるのは数ヶ月待ちの状態。癌治療などをしている人は、手術が数ヶ月先にしか受けられないので、治療を開始する前に亡くなってしまう人も多々いる。
待ち時間がなく、すぐに検査を受けられるのは民間病院。
割高で全額自己負担でも適切な治療がすぐに受けられる方を選ぶようになるのが常である。しかし、貧困層の人は無料で診てもらえる公的病院に行くしかないので、先に書いたような状態になり、「治療予約の為の予約」の前段階で、息絶えてしまうという構造だ。

タダほど怖いものはない。

コロナウイルスPCR検査は、公的病院と私的病院、どちらでも受けられる。
血清学的検査でコロナ陽性となった人は無料で提供されている。(チケットの免除あり)。
その他のケースでは、医師の処方箋で地域病院で約70ユーロを支払えば受けられる。
血清学的検査は5ユーロ。個人の場合は分子スワブの費用は80ユーロから120ユーロの範囲内でそれ以上はかからない。

ミラノではドライブスルーでPCR検査を受けることができるが、待機時間は約3時間ほど。
ローマでは14時間も待たなければいけないそうだ。費用は22ユーロほどで処方箋はいらない。
いくつかのクリニックでは、50〜60ユーロでそれ以上は検査費用を請求してはいけない。上限を決める条例がなかった頃は、200ユーロ以上(約25,300円以上 )を請求している悪徳ぼったくり病院もあった。
カンパニア州の知事ヴィンチェンツォ・デ・ルカ知事は、プライベートでPCR検査を受けることを禁止した。

先週、国家警察カラビニエーリによって一斉捜査があった。全国の約300の企業と分析研究所、民間および関連会社、その他分子、抗原、血清学的分析テストを提供する業界の組織を管理しているNasによると、無許可の施設、衛生状態の欠陥、期限の切れた試薬、および保健当局に報告されていない大量スクリーニングが報告された。
その数非準拠施設は67、94件の行政違反と145,000€(約1,830万円)の罰金刑事処分があったと。
特に違反の内の15%を占めているケースは、Covid-19のPCR検査を実行する権限の欠如、不適切な環境で違法に実行されていた。

そして、記録された違反の14%は、陽性症例の伝達の省略または遅延が挙げられた。陽性であってもその事実を長らく知らされていなかった患者もいるという事だから恐ろしい。

その他、管理手順の欠如や施設の製品の消毒が不十分であった違反が11%。
診断テストの実行における技術的および専門的要件の欠如、診療所内の予防計画とプロトコルの準備と実施の欠如も報告された。

資格のある実験技術者がいない、期限切れの試薬と診断薬の使用がされていたと報告された事例が6件あった。
あるケースでは、保健当局への事前の連絡なしに、一部の自治体から研究所に委託された人口スクリーニングキャンペーンまで開催されていたという。
その他、報告された違反例は、専門家の健康使用のみを目的とし、自己診断には適さない抗体血清学的分析キットを薬局または薬草店や香水店で顧客へ小売販売していた。
関連して、これらの抗体血清学的分析キットや違法に保管された153の診断キットと医療機器が押収された。

いろいろずさんでいい加減なイタリアの医療事情のニュースを見るたび、この国で大病を患うとまず治療はできないし、完治しないだろうし、人は遅かれ早かれ天に召されるのだが、本望ではないが帰天するしかないという諦めを感じてここで生きていく。

夫が「恵子が高熱を出して、犬を散歩に連れ出せない、5分でいいからおトイレに連れ出してくれないか」と友人らに片っ端から電話したせいで、私は今や近所では"コロナウイルス陽性患者"扱いで距離を置かれている。今日も平熱だし元気なのに、コロナウイルス陽性者じゃないのに白い目で見られているようでわんこ達の散歩も肩身が狭い。臨時的に犬の世話を頼んだ友人らには、コロナウイルス陽性の可能性のある私たちには近づきたくないので、我が家のワンコ達のお世話はしたくないと全員に拒否された。義父母もはっきり嫌だと断ってきた。それも当然だと思った。そんなもんだ。

本当にコロナウイルスに罹患してしまったら、どんな仕打ちが待っているんだろうか。考えただけでゾッとするイタリア。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ