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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

言わないで!良かれと思った言葉で、愛する人を亡くさないために

(出典: https://pixabay.com)

 コロナ禍になってから、「子どもが家から一歩も出ない」、「元気がなく、会話がなくなった」、「自殺を考えているんじゃないかと心配」という親からの問い合わせが増えた。また、配偶者や恋人が「怒り出したらどなり散らして止まらない」、「自分なんていない方がましだと言う」、「このまま悪化したら死んでしまうかも」などの相談も増えている。話を聞いていると、自殺を考えている人に対して良かれと思って言った言葉が、逆に相手を追い詰めているケースがとても多いのに気づかされる。今回は、自殺を考えている人の兆候と、希死念慮のある人に対して言ってはいけない言葉、また、死にたいと打ち明けられた時にどう対応したらいいのかを紹介する。

自殺を考えている人の兆候

状況的な兆候や要素

・精神的・肉体的・性的虐待を受けたことがある・受けている

・家族や親がDVの被害に遭っている

・家族や友人、大切な人や近い存在の自殺

・不治の病の診断

・リストラ・解雇・望まない転勤

・新しい職場や仕事での苦労

・長時間の労働

・経済的困難

・離婚や恋人との別離

・好きな人に振られる

・仕事や学業、スポーツ分野での困難や挫折(受験に落ちる)

内面的・性格的な兆候や要素

・元気がなく、うつ症状を示す

・怒りやすくなる

・不安や恐怖にかられ、突然泣き出す

・いつものその人の言動から異なり、不可思議に思える言動

・絶望感:「生きている意味がない」、「これ以上何をやっても無駄」、「死んだ方がましだ」

・無力感:「私は役立たずな人間だ」、「寝ている時に死ねればいいのに」、「これ以上耐えられない」

・罪悪感:「私なんていない方がいい」、「みんなに迷惑をかけて申し訳ない」、「子どもや家族のために死ねない」

・死や自殺の話をする

・未来への興味や期待がない

行動的な兆候

・睡眠サイクルの大きな変化、不眠・過眠

・食生活の大きな変化、体重の激増や激減(1ヶ月で体重の20~25%が目安:体重50kgで10kg前後)

・社会的引きこもり(友人や家族との会話がなくなる、趣味や社会的な活動をやめる)

・外見の大きな変化(清潔面に無頓着になり、服装が乱れる)

・お酒の量が増える

・ギャンブルにはまる

・車の運転が荒くなる

・身の回りの整理(大事な物を手放す、誰かにあげる)

・遺言の作成・変更

・子どもやペットの預け先を決める

・加入している保険内容を確認する

・問題や人間関係を解決または修復しようとする

・以前に自殺未遂を起こしている

・自殺の手段の取得(包丁、ロープ、薬など)

・お気に入りのレストラン、思い出の場所に行ってお金を使う。豪華な旅行に行く。

・回復したように見える

(参照: Mindful Ecotherapy Centerウェビナー『自殺リスク診断および予防』から)

 上記のリストで1つや2つ当てはまるから自殺傾向がある訳ではなく、該当する項目が多ければ多いほど、また変化の度合いが大きければ大きいほど自殺のリスクが高まるとみていい。大事なのは変化のパターンで、たとえばうつ病の初期症状として、夜なかなか寝つけない、眠りが浅く夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうなどがあるが、その症状がいつから始まり、どのくらい続いているかを知る事が重要だ。平均的な睡眠サイクルと大幅にずれていても、「もともと宵っ張りなんです」、「この30年間、朝4時起きなんです」と言う人なら心配する必要はないだろう。

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(出典: Pixabay.com)

 この中でもとくに、「回復したように見える」という項目には要注意だ。周囲は良くなっていると喜ぶが、本人は自殺を決めた事により「これで、生き地獄のような苦しみから解放される」と一時的に気が楽になっている状態かもしれない。自殺を試みた人、また自殺企図で救急搬送された人に対しては、「気分がよくなり、だいぶん楽になりました」と言われても、最初の3~6週間は決して油断できない。6週間後も自殺のリスクは大きく下がるが危機的な状態が去った訳ではないので、引き続き見守る姿勢が大切だろう。

 「未来への興味や期待がない」という項目は、「~年後、どうなっていると思いますか」と聞くと、自殺企図のある人は言葉に詰まる場合が多い。5年後よりも、1ヶ月後、1週間後など短い期間にどうなっているかを答えられない人ほど具体的な自殺企図を持つ可能性が高い。

 「死や自殺の話をする」という項目に関しては、ニュースなどを見てたまたま話題にした場合もあれば、思春期の若者の特徴として暴力的なゲームや音楽、映像に惹かれる場合もあるので、それだけで必ずしも自殺傾向があるとは言えない。しかし、助けを求めているサインの可能性も否定できない。たとえば、「私なんていない方がいい」、「生きている意味がない」、「死んだ方がましだ」などの絶望感や無力感を表す言葉を相手が言ったら、それが口論の末に売り言葉に買い言葉的に出た場合でも、たとえ冗談まじりに出た言葉であっても注意が必要だ。自殺について尋ねるには勇気がいるが、深呼吸して落ち着いてから「これまで死にたいと思った事や、自殺を考えた事がある?」と聞いてみるだけでも損はしない。

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ティーンエイジャーの自殺を助長するとして批判を浴びたネットフリックスの番組『13の理由』

自分の意見やアドバイスはぐっと我慢!

 もし、相手が自殺を考えていると話してくれた時は、聞き役に徹して、相手の気持ちをそのまますべて受け入れて聞き、自分の意見やアドバイスは言わない事。相手を大切に思うからこそ「残された家族や友人が悲しむよ」、「生きていればきっといい事あるよ!」、「自殺は、一時的な問題への恒久的な解決だよ」、「歯を食いしばって頑張れば、絶対何とかなる」など励ましたくなるのが人情だが、こうした「正論」やアドバイスは、逆に相手を追い詰めて事態を悪化させる事につながりかねない。相手はただ、自分の気持ちや考えを認めてほしいだけであり、問題を解決してほしいのではない。多くの場合、強い否定思考や不合理な信念を持っている相手を正そうとすると、相手は逆に心を閉ざして、その信念を強化して状況を悪化させる事につながる。まずは、状況の悪化を防ぐ事が先決だ。

 希死念慮や死にたいと思う気持ちは衝動的なものが多く、比較的短い時間で収まる。アメリカで自殺を試みた人に対しての調査では、自殺をしたいと思って行動に移すまでの時間は、48%の人が10分以内だったと回答している。自殺衝動のあるクライアントでも、大抵は30分ほどでかなりの落ち着きを取り戻すので、救急搬送にまでいたるケースは意外と少ない。自殺はよくないと正論で追い詰めるのではなく、イソップ寓話『北風と太陽』に出てくる太陽のように、その人とただその場に一緒にいて話を聞いて気持ちを共感する事で、その人の硬く閉ざした心を温めてあげる事が大切だ。

自殺を示唆するすべての言動は危険信号

 なかには、「うちの子は、注意を惹きたくて死ぬと言っているんです」と言う親もいるが、自殺を示唆するすべての言動は、真の目的が何であれ「死ぬ危険性」があると捉えて介入する必要がある。注意を惹くためにやっていると解釈して軽く受け流すのではなく、むしろなぜ「死」を使って注意を惹かなければいけないのかという必要性を考えてみると、そこには必ず満たされていないニーズ、未解決の問題が隠れている。それを満たしてあげたり、共感してあげる事が自殺のリスクを下げる事につながる。

 ありがちなのが、子どもに自立した強い大人に育ってほしいという思いから、「あなたの考えはまだまだ甘いよ」、「私が子どもの頃は~だった」、「そんな事くらいで落ち込んでどうするの」、「あなたにも悪い所があったんじゃない」、「世の中にはもっと大変な人もいるんだから」など自分の価値観や一般常識にもとづく意見を言う事だ。子どもはただ、自分が何をしたいか、何を考え感じているかを聞いてほしいだけなのだ。自分の気持ちを否定されたり無視されたりする状態が続けば、子どもは弱音を吐けずに精神的に疲弊し、親に相談する事を諦めて孤独感や絶望感をますます深める事になる。

 そこに学校成績や習い事のプレッシャー、友人関係のストレス、いじめや両親の不仲に加えてコロナ禍も相まり、これ以上無理となっているところで、何かきっかけとなる出来事(親との喧嘩、恋人との別れ、ソーシャルメディアでの否定的な書き込みなど)が起これば、心が折れて衝動的に自殺を試みるというのは十分に理解できるだろう。特にティーンエイジャーに対しては、恋人と別れた数ヶ月は非常にリスクが高いので、恋愛関係についても質問するのが必須になる。

 自殺について話す事で、距離を持たれたり関係が悪化してしまうのではないかと心配する人が多いが、逆に関係が深くなり、絆が強くなるケースの方が多い。さらに詳しく自殺予防について知りたい人は、2021年1月30日(土)にオンラインセミナー『世界から学ぶ自殺予防』を開催するので、興味のある人はぜひ参加してほしい。

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 いずれにしても、自分の愛する人がもしかして自殺を考えているかもしれないという兆候や恐れがある場合、一人で悩まずに家族や友人、職場、学校などの信頼できる人、また専門家に助けを求めてほしいと切に願う。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、15年間ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。2011年の東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウェスト大学院でカウンセリング心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える人々にセラピーを提供している。悩みを抱えている人、生きづらさを感じている人はお気軽にご相談を。


ウェブサイト:http://www.lifefulcounseling.com

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