コラム

【学術会議問題】海外の名門科学アカデミーはなぜ名門といえるのか

2020年12月08日(火)11時22分

欧米ではそもそも、科学者の自発的な学問芸術の団体が先に存在し、国王や政府から公的認証を受けたり、税金投入による支援が拡大してきた歴史がある。なので、資金援助を受けながらもそもそも当初から民間団体として独立性を持っている。但し、独立機関として、行政府、立法府と距離をおいているのではなく、議会が自ら科学技術情報について審議する常設の委員会を整備している等、科学と政治の対話を深める積極的な場がある

日本ほど政治家と科学者が離れている国はない

歴史ある民間団体としての独立性を保ちつつ、行政・立法の要請にも積極的に答え、国もその研究や成果に対して積極的に財政援助を惜しまない。


"「民主主義国家では科学技術と社会の関係にかかわる知見を国会議員が、個別の専門家だけからではなく、中立的な組織と交流しつつ入手するシステムが成立し、得られた選択肢を政策立案過程で活用している。" - 日本工学アカデミー「政治家と研究者を混ぜると、何が起こるか?」ワークショップ

欧米では、今回のコロナ禍に立ち向かうべく各国アカデミーが政府と連携して様々な活動を行ったと聞く。

一方学術会議は、3月に簡単な紙2枚の幹事会声明文を出したのみだ。


"日本学術会議は、学術の立場からその社会的使命を自覚し、世界的視野で学術的連帯をとりつつ、様々な立場の方々と協力して感染症対策に取り組んでまいります。" 令和2年3月6日 日本学術会議幹事会声明一部抜粋

II. 時間軸(順序)による検証

日本学術会議の特殊性と政府との関係に問題はあるとしても、依然として首相が日本学術会議による推薦名簿の内容をそのまま任命するのは、長年守られてきた慣例であり、法律の定めるところだ。

国会答弁で時の中曽根総理が明言していたことでもある。

学術会議「政府は形式的任命」 中曽根氏答弁の裏であったせめぎ合い

この慣例を覆すためには、しかるべき手順を踏んだ法改正が必要だし、そうでなくても最低限の説明責任を果たすことが求められることは言うまでもない。

何故、総理はこのような、炎上必須の任命拒否に踏み切ったのかだ。

また、この意思決定を実質的に行ったのは、安倍前総理なのか、菅総理なのか、だ。

菅首相は就任早々「地雷」を踏んでしまった〜田原総一朗インタビュー

時間軸で確認すると、

官邸は2014年の学術会議の時点で、選考過程の説明を杉田和博官房副長官が求めている。

2015年の安保法制での憲法学者の違憲発言が相次いだ後の、2016年の補充人事では官邸が難色を示し、結果欠員3名が出ている。

官邸、学術会議の14年選考にも関心 杉田氏が説明要求

第2次安倍政権発足当初から、学術会議の特別公務員の任命には関心を持っていたことが時間軸で整理すると見えてくる。

そういう意味では、安倍総理時代に、安保法制と関連法案に反対した研究者のリストは、少なくとも杉田副長官にはあったと思われる。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2日に3兆円超規模の円買い介入の可能性、7日当預予

ワールド

OECD、英成長率予想引き下げ 来年はG7中最下位

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story