コラム

北京五輪のアプリに、個人情報漏洩、検閲キーワードなど、深刻な問題が見つかった

2022年01月19日(水)15時15分

北京五輪のアプリ「MY2022」に深刻な問題が見つかった REUTERS/Thomas Peter

<北京オリンピックで関係者および観客に対してインストールが義務づけられているアプリ「MY2022」に個人情報漏洩のリスクと技術的な脆弱性が見つかった>

人権問題やコロナでゆれる北京オリンピックで、新しい問題が発見された。北京オリンピックで関係者および観客に対してインストールが義務づけられているアプリ「MY2022」に個人情報漏洩のリスクと技術的な脆弱性があった。サイバー空間での人権についての調査研究を行っているカナダトロントのシチズンラボがレポートを公開した。すでに中国当局にも連絡済みだが返事はなかったという。

観客、報道関係者、選手などが必ずインストールしなければならない

問題のアプリ「MY2022 Olympics app」は、北京オリンピック組織委員会が開発したもので、アプリストアの情報では北京金融控股集団有限公司(Beijing Financial Holdings Group)という国有企業が提供している。英語、フランス語、ドイツ語、日本語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、スペイン語の7カ国語に対応している。関心ある方はご自身のアンドロイドあるいはiPhone、iPad、Macのアプリストアで「MY2022」と検索するとすぐに見つかる。

MY2022は今回の北京オリンピックの観客、報道関係者、選手などが必ずインストールしなければならないアプリとなっており、オリンピック期間である2月4日から20日までだけでなく、中国に出発する14日前までにインストールしておかねばならない。すでに1月中旬なのでかなり多くの関係者がインストールしている可能性がある。

このアプリにはパスポート情報、属性情報、渡航歴、病歴などの情報を登録しておくだけでなく、毎日の健康状態のモニタリングにも使われる。中国国内の利用者の場合は雇用情報などさらに詳細な個人情報も収集するようになっていた。

データ漏洩、検閲用のキーワード、ガイドライン違反

指摘されていた問題は大きく4点。致命的な問題に関しては、修正されないとアンドロイドやiOSなどのアプリストアから削除される可能性があるので、すぐに修正される見込みである。

1.脆弱性によるデータ漏洩などの危険

利用者の音声やファイル転送を保護する暗号化が簡単に回避される致命的な欠陥があった。パスポート情報、人口統計学的情報、病歴や旅行歴を送信する健康診断書なども漏洩する危険がある。

脆弱性の内容は2つあり、ひとつは通信先のサーバーを確認するためのSSL証明書を検証できないという単純かつ致命的なものだった。一部、検証できたサーバーもあったものの、検証できないサーバーがいくつも見つかっており(my2022.beijing2022.cn、tmail.beijing2022.cn dongaoserver.beijing2022.cn、app.bcia.com.cn、health.customisapp.com)、悪用されると攻撃者はサーバーの応答を偽装して情報の摂取などを行うことができる。

また暗号化されずに通信を行っている問題があり、データが漏洩する可能性がある。

2.情報の共有範囲が明確ではない

収集した情報の共有範囲を明確にしていない。このアプリはパスポートや健康情報などの機密性の高い個人情報を扱っているが、それがどこまでの範囲で共有、利用されるのかが明確ではない。

アプリストアでは明示されているものの、公式Olympic Games Playbookでは、北京2022組織委員会、中国当局(中国国民政府、地方当局、その他の健康・安全を担当する当局機関など)、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会、およびコロナ対策の実施に関与する団体などとなっており、さらにMY2022自体のプライバシーポリシーにはデータの共有範囲が明示されておらず、利用者の同意なしに個人情報が開示される可能性も示唆されていた。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア下院、ミシュスチン首相の再任承認 プーチン氏

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story