コラム

「女性議員に辞任を迫るヘイトはファシズムに道を開く」ヒラリー・クリントン氏が警告

2019年11月15日(金)12時05分

2016年のEU国民投票で離脱派が勝利してから、英国では中道寄りの穏健な政治家の多くが政界を去った。国民投票では残留を唱えていた労働党の女性下院議員ジョー・コックス氏が極右の狂信者に惨殺された。

今回、立候補しない理由にヘイトを挙げた女性下院議員も少なくない。

・保守党のニッキー・モーガン・デジタル・文化・メディア・スポーツ相「下院議員の仕事をしていく上で家族への影響、関係者の犠牲、攻撃があった」
・EU離脱を巡り、離脱派の保守党から残留派の自由民主党に鞍替えしたハイディ・アレン下院議員「日常になってきたプライバシー侵害や脅迫に疲れ果てた」
・労働党をやめたルイーズ・エルマン下院議員「反ユダヤ主義を放置するコービン党首が首相になる恐れがあるので労働党に投票してほしいと言えなくなった」

保守党を離党した残留派のアナ・スーブリ下院議員は独立グループ「チェンジUK」から立候補するが、「ジョー・コックスの次はお前だ」と殺害予告を受けている。残留派議員の立候補を阻止するため、執拗な攻撃が繰り返されている。

英シェフィールド大学が2015~19年に英国の下院議員が受けたネット上の攻撃について調べている。下院議員のツイートへの返信で攻撃とみられる言葉が含まれていた件数や特徴は次の通りだ。

2015年 7960件
2017年 2万477件
2018年 3万871件
2019年 2万6854件

・男性議員の方が女性議員より圧倒的にネット上の虐待や攻撃にさらされている。
・2015~18年までは保守議員への攻撃が多かったが、今年に入って保守党議員への攻撃件数は半数を割る。
・首相や党首ら大物議員やツイッターをよく使う議員がターゲットにされる。

ツイッターはすべての政治広告を止めるという決定を下したが、フェイスブックはファクトチェック(検証)されていない離脱派の政治広告を垂れ流していると英国の総選挙でも改めて批判されている。

クリントン氏は「テクノロジーは人間の能力を追い越し、何が真実で何が真実でないかを判別できるようになった。しかし米政府も英政府も、その他の機関もまだ取り組んでいない」と指摘する。

「1995~96年にはまだ誰もインターネットは私たちをグローバルにつなぐと同時に、ヘイトや偽情報、悪徳のプラットフォームにもなるとは想像できなかった」

そしてフェイスブックについて「政治広告について何の規制もしないのはデタラメの広告で金儲けするのと同じだ」と厳しく批判した。

20191119issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月19日号(11月12日発売)は「世界を操る政策集団 シンクタンク大研究」特集。政治・経済を動かすブレーンか、「頭でっかちのお飾り」か。シンクタンクの機能と実力を徹底検証し、米主要シンクタンクの人脈・金脈を明かす。地域別・分野別のシンクタンク・ランキングも。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ラファの軍事作戦拡大の意向 国防相が米

ワールド

焦点:米支援遅れに乗じロシアが大攻勢、ウクライナに

ワールド

南ア憲法裁、ズマ前大統領に今月の総選挙への出馬認め

ワールド

台湾新総統が就任、威嚇中止要求 中国「危険なシグナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story