コラム

「私はあなたのポルノじゃない」国際人権団体が韓国にデジタル性犯罪への取り組み求める 英はレイプの起訴率激減

2021年06月21日(月)10時55分
性犯罪の被害者(イメージ)

泣き寝入りするしかない被害者も Tinnakorn Jorruang-iStock.

<#MeToo(ミートゥー)運動の時代だというのに、イギリスでも韓国でも性犯罪は栄える一方>

[ロンドン発]#MeToo(ミートゥー)運動の影響でレイプやセクハラを告発する女性が増える一方で、事実上、レイプは犯罪扱いされなくなっている。英イングランド・ウェールズでは年約12万8千件のレイプが起きる。警察に出された被害届は2015年度の2万4093件から19年度の4万3187件に増えたものの、起訴率は13%から3%に激減した。

英政府は18日、レイプを巡る刑事司法制度を検証した報告書を発表した。それによると、19年度に起訴されたレイプ事件のうち有罪になったのは3分の2。被害届全体の11%は容疑者を特定できず、27%が証拠不十分、57%は被害届を取り下げていた。予算削減が一因だとしてプリティ・パテル内相とロバート・バックランド法相は「恥ずかしい」と陳謝した。

16年に検察庁がレイプについて有罪率を60%に引き上げたため、有罪に持ち込みにくい事案は前さばきでふるい落とされた。スマホやSNSの普及で証拠の量は激増したが、容疑者の個人データを捜査するより、被害者のプライバシーがこれまで以上に侵害されるようになり、被害届を取り下げる件数を押し上げた。4年間で起訴は59%、有罪は47%も減っていた。

ハイテク・韓国は「デジタル性犯罪大国」

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が公表した韓国のデジタル性犯罪報告書『私の人生はあなたのポルノじゃない』も凄まじい内容だ。英メディアのロイター通信、BBC、フィナンシャル・タイムズ紙も一斉に報じた。スマホ保有率が世界一高く、インターネットのスピードも世界最速の韓国は、デジタル性犯罪も世界トップクラスだ。

18年、ソウルで「スパイカム(隠し撮り用小型カメラ、韓国語でモルカ)」による盗撮の厳罰化を求める女性約7万人の抗議集会が開かれた。サムスン電子やLGのスマホや液晶テレビが世界中に氾濫する中、韓国では「スパイカム」を学校や職場、列車、トイレの中に仕掛けて女性を盗撮する事件が多発。そのことに女性たちが怒りを爆発させたのだ。

HRWはデジタル性犯罪の被害者や遺族、政府内外の専門家、学識者、サービスプロバイダーら計38人からインタビューするとともに、オンライン調査も実施した。

19年8月、病院の臨床病理医が逮捕された。病理医は女性検査技師を含む複数の女性同僚を盗撮していた。検査技師は20年1月に結婚を控えていたが、自ら命を絶った。検査技師の父親は「私たちは地方に住んでおり、みんなよく知っていた。病理医が盗撮した写真を他の誰にも見せていなくても、誰かが見たと娘は非常に恐れていた」と打ち明けた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story