コラム

真の「ロシアの愛国者」はプーチン大統領か、ナワリヌイ氏か...獄死した夫の意志を継ぐ妻ユリアさんの叫び

2024年02月21日(水)17時14分

「しかし夫のために、私たち自身のためにできる最も重要なことは闘い続けることです。これ以上は不可能に思えるかもしれないが、私たちはもっと団結して、この狂気の政権を殴りつける必要があるのです。プーチンとその仲間たちが祖国を機能不全に陥れています。私は、あなたがズタズタに引き裂かれているのを感じています」

2020年8月、モスクワに戻る機中でノビチョクを盛られたナワリヌイ氏はドイツで治療を受けた際、身の安全を守るためそのまま残ることもできたが、投獄されるのを覚悟の上でロシアに戻った。その理由についてユリアさんは自問自答する。「なぜ彼はロシアに戻ったのでしょうか。なぜ彼は、一度自分を殺しかけた連中の魔の手に進んで身を投じたのでしょうか」

「私にはまだ残りの半分がある」とユリアさん

なぜナワリヌイ氏は犠牲を払ったのか。ユリアさんは「結局のところ彼は平穏に暮らし、自分と家族の世話をすることもできたはずです。公に話さず、調査せず、名乗り出ず、闘わない選択肢もありました。しかし、彼はそうしませんでした。アレクセイは世界の何よりもロシアを愛していたからです。彼は私たちの国を愛し、あなたを愛していました」と訴える。

「彼は私たちを信じ、私たちの力を信じ、私たちの未来を信じ、私たちがベストに値するという事実を信じました。言葉ではなく、行動で。そのために命を捧げる覚悟ができるほど深く、誠実に。そして彼の計り知れない愛は、私たちが彼の仕事をいつまでも続けるのに十分なものです。アレクセイのように激しく、勇気を持って」

「私には他に国がありません。引きこもる場所もありません。他の国も、他のモスクワも、他の家族も、あなたたち以外の人々もいないのです。しかし、どうやって生きる力を得ればいいのでしょう。彼の記憶の中に、彼のアイデアの中に、私たちに対する彼の無尽蔵の信頼の中に私は力を求めます」

「アレクセイを殺したことで、プーチンは私の半分を、私の心と魂の半分を殺しました。しかし私にはまだ残りの半分があり、半分になった心と魂は私にあきらめる権利はないと教えてくれるのです。黙って抵抗するのではなく、街頭に出ましょう。私たちが行動を起こさなければ、他の誰も私たちを守ってはくれないのです」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 8

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 9

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story