コラム

中国と東欧はどっちが先進国?

2016年05月30日(月)17時00分

ポーランド・サッカー界の大スター、レヴァンドフスキ選手を起用した中国ファーウェイの広告(ポーランドのウッジ) Tomoo Marukawa

<中国のインフラ輸出攻勢は東欧でも盛んで、ハンガリー、旧ユーゴのマケドニア、セルビアなどでは橋や高速道路の建設や高速鉄道車両の輸出が始まっている。だがそこで目立つのが、東欧諸国は開発途上とでも言わんばかりの中国の「上から目線」。本当はどちらがより先進国か?>

 5月中旬にポーランドを訪れましたが、そこでも中国の積極的な進出ぶりを目にしました。街中の目立つところには、ポーランド・サッカー界の大スター、レヴァンドフスキ選手(バイエルン・ミュンヘン)を起用したファーウェイのスマホの巨大な広告が掲げられていました。ポーランドの各大学には中国から「孔子学院」を設立しないかという働きかけが盛んになされています。「孔子学院」とは中国政府が費用を負担して中国語を教える学校を各大学の中に設置するものです。

東欧で続々とインフラ受注

 2015年11月には中東欧16カ国の首脳を中国・蘇州に集めて「16プラス1」協力会議が開かれました。この会議は2012年にワルシャワで初の会合が行われ、今回で4度目ですが、今回はすっかり中国のインフラ輸出を売り込む場となってしまいました。その場で、中国がハンガリーの首都ブダペストとセルビアの首都ベオグラードとを結ぶ高速鉄道を建設する契約が調印されたほか、李克強首相が中東欧の首脳たちに蘇州から上海へ高速鉄道を試乗させました(「観察者網」2015年12月10日)。

【参考記事】日本の新幹線の海外輸出を成功させるには

 実際、中東欧地域ではすでに中国企業がさまざまなインフラの建設を受注しています。セルビアでは、ベオグラードでドナウ川を渡る橋を中国企業が建設しました。また、セルビアとマケドニアでは高速道路を建設中です。「16プラス1」協力会議ではインフラ建設のための100億ドルのファンドを作りましたが、それを使ってボスニア・ヘルツェゴビナでは火力発電所の建設が進められています。マケドニアでは中国から輸出された高速鉄道車両が走っています。

【参考記事】ドイツ発の新産業革命「インダストリー4.0」の波に乗ろうとする中国企業と、動きが鈍い日本企業

 蘇州での会議では新たなプロジェクトへの売り込みも行われました。その一つはバルト海高速鉄道で、これはエストニアのタリンから出発し、ラトビア、リトアニアを通り、ワルシャワを通ってベルリンまで結ぶ鉄道をEUの投資によって建設しようという壮大な計画です。

 こうした中国の中東欧への積極姿勢は西欧に一定の波紋を引き起こしています。ドイツやフランスの鉄道車両メーカーは心穏やかではないでしょうし、折しもギリシャ債務の問題や難民の問題でEUが困難な時期に、中国が札束外交を繰り広げることに対してヨーロッパ側から反発も出ています。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story