コラム

スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦

2024年01月30日(火)17時52分

image002-1024x576_720_405.jpg

上海のラッキンコーヒーの店頭。レジがない(筆者撮影)

まず、ラッキンのお店にはレジがなく、購入も支払いもすべてスマホのアプリ上で完結する仕組みになっている。アプリの中で自分が商品を受け取りたい店を指定すると番号が与えられ、窓口でその番号を伝えればコーヒーを受け取れる。また、ラッキンの店舗にはスターバックスのように店の中でゆったりコーヒーが飲めるスペースがあるもののほか、厨房と受け渡し窓口だけがあるテイクアウト専門の店もある。後者の場合は専有面積が小さいので、家賃コストが少なくて済むし、物件を見つけやすい。さらに、機器のメンテナンスや材料の在庫管理にセンサーが使われていて、店長の業務負担が小さいため、店長を育成する期間が短くて済むのだそうだ。

しかし、売上額粉飾の代価はきわめて大きかった。ラッキンは2020年6月にナスダック上場廃止となっただけでなく、中国の国家市場監管総局には6100万元の罰金、アメリカSEC(証券取引委員会)には1億8000万ドルの罰金を支払い、さらに株主代表訴訟も起こされて1億8750万ドルの賠償金を支払うことで和解した。

混戦再び

2022年秋には債務の整理や株主との和解もおおむねカタがつき、ラッキンは新たな経営陣のもとで再び店舗数の拡大に乗り出した。2023年1月から9月の9カ月間で5000店舗以上も増やす猛烈な拡大ぶりである(図2)。

2b530e80c7d0de90885e285c5d798063-1.png

図2 ラッキンコーヒーの店舗数

売上額でも2023年第2四半期に8億5520万ドルを記録し、初めてスターバックスの中国での売上額(同期に8億2190万ドル)を上回った。もっとも、ラッキンの売上額粉飾の前科を考えると、このデータをはたして額面どおり受け取っていいのか迷うところであるが。

コーヒーの値段は「スタバ>ラッキン」

ラッキンの店舗の立地や商品の価格帯をみると、スターバックスと対抗するよりもむしろすみ分けを目指しているように思われる。

両者の間ではまず商品の価格帯が大きく異なる。中国のスターバックスでは、一番安いアメリカーノのレギュラーサイズが27元(1元=20円で換算すると540円)と、日本よりも高い価格設定になっている。最近売り出し中のフラットホワイトは「馥丙白」となかなか優雅な中国名がつけられているが、お値段もレギュラーサイズで35元(700円)と優雅である。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story