コラム

世界報道写真入賞作「ささやくクジラたち」を撮った人類学者

2016年08月16日(火)12時14分

「ささやくクジラたち」 From Anuar Patjane Floriuk @anuarpatjane

<2016年世界報道写真コンテストのネイチャー部門で入賞した上の写真を撮ったのは、メキシコの社会人類学者アニュアー・パットハネ。なぜ人類学者がこれほど優れた海洋写真を撮れるのだろうか?>

 人類学と写真ほど似通っているものはないかもしれない。目的論的に言えばどちらもその核となるのは、人間と、それに絡む環境、社会、文化についての探求である。その探求を通して、いったい人間とは何であるかを追い求めているのだ。そのためか、時として人類学をバッググラウンドに持つ優れた写真家に出会う。今回紹介するメキシコの社会人類学者アニュアー・パットハネもその一人だ。

 水中写真、海洋写真を中心にインスタグラムで作品を発表している。ソニーの小型カメラ(Sony Cyber-shot DSC-RX100)を使ってメキシコのレビジャヒヘド諸島海域で撮影した作品「ささやくクジラたち」は、今年のワールド・プレス・フォト(世界報道写真コンテスト)のネイチャー部門シングル(単写真)に入賞している。水面下で太陽光がつくり出す幻想的な光を巧みに捉え、その中でザトウクジラの母親と生まれたばかりの子クジラとが戯れて泳いでいる白黒写真だ(冒頭の写真)。

 海に興味を持ち、ダイビングを始めるようになったのは、自らもダイビングをしていた海洋生物学者の母親の影響らしい。そして、ダイビングの世界を知れば知るほどその魅力にはまっていったという。写真の方はというと、大学で文化人類学を専攻していた22 歳の頃、フォトドキュメンタリーのコースを取ったことがきっかけだ。だが、水中撮影に本格的に興味を持ち出したのは、わずか4年前、2012年のガラパゴス諸島でのダイビングからである。

Exploring the depths of Plataforma Tiburon, an abandoned oil pumping platform in the Mexican gulf near Tamiahua, Mexico.

Anuar Patjane Floriukさん(@anuarpatjane)が投稿した写真 -

「メキシコ湾に廃棄された石油リグ」

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

シェブロン、英北海事業から完全撤退へ 残る資産の売

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ロシアとの武器交換を否定=KCN

ワールド

米大統領、トランプ氏の予測違いを揶揄 ダウ4万ドル

ビジネス

アングル:米株が最高値更新、市場の恐怖薄れリスク資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story