コラム

人工知能の未来を読みたければNVIDIAの動きを追え

2016年11月22日(火)17時05分

 今日のAIブームは、NVIDIAがコンピューティングコストを大幅に下げたことが最大の要因かもしれない。

目と耳を持ったAI

 その後のAIの進化には、目を見張るものがある。2011年にGoogleのコンピューターが膨大な枚数の猫の写真を読み込むことで、猫の特徴を自分で学習し、猫の写真を正確に認識できるようになったが、そのわずか4年後にはAIは人間よりも正確に画像認識できるようになっている。

 ImageNetとよばれる画像データベースに蓄積された写真を見て、その写真に写っているものが何であるのかを認識するテストで、人間は平均で約5%の写真を誤認するという。人間のエラー率は5%ということだ。

 AIは順調にエラー率を低下しており、2011年には25%だったエラー率が2012年には15%、2014年には6%となり、2015年には3%を達成。ついに人間のエラー率を下回った。人間より画像を正確に認識できるようになったわけだ。

 音声認識では、Microsoftが強い。今年9月にはエラー率が世界記録の6.3%を樹立したかと思えば10月にそれを更新。5.9%を記録した。これはプロのディクテーター(速記者)と同レベルだという。人間を超えるのは時間の問題だと見られている。

 Microsoftの研究者は「ここまでの成果を挙げれるとは、5年前には想像もつかなかった」と語っている。

 AIが人間を超える「目」と人間並みの「耳」を持った。「目」と「耳」は学習のために最も重要な感覚。「目」と「耳」を持ったことでAIは、今後さらに急速に学習していくことになるのだろう。

出揃ったNVIDIAの半導体

 「目」のAI、「耳」のAIともに、使われているハードウェアはNVIDIAのGPUだ。

 企業で最も早くNVIDIAのGPUを採用したのは、Baidu、Google、Facebook、Microsoftなどだが、NVIDIAが協力する企業の数はここ2年間で35倍にも増えており、3400社を上回るまでになったという。

 領域としては、ヘルスケアやライフサイエンス、エネルギー、金融サービス、自動車、製造、メディア・娯楽、高等教育、ゲーム、政府など。ありとあらゆる産業が、AIを活用しようとしていることが分かる。

 またNVIDIAはこうした業界からの要望に応えるため、PC向けにはGeForce、クラウドやスーパーコンピューター向けにはTesla、ロボットやドローン向けにはJetson、そして、自動車向けにはDRIVE PXといった名称のGPUを揃えてきた。

 準備万端。これからいろいろな産業で、AIを搭載した製品やサービスが怒涛の如く生まれてくることだろう。本格的なAI革命が、幕を開けようとしているわけだ。

TheWave湯川塾
湯川鶴章オンラインサロン
ビジネスマンのためのAI講座

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州企業、中国が投資先トップの割合過去最低=EU商

ビジネス

ネスレ、26年までにブラジルでネスカフェ強化に1.

ワールド

バイデン大統領次男の控訴退ける、銃不法購入で6月初

ビジネス

米、来週にも中国に関税発動 戦略的分野が対象=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story