コラム

変異株を追いかけろ 新型コロナのゲノム解析で世界一になったイギリスの科学力

2021年02月06日(土)10時01分

研究用に新型コロナ感染者の血液サンプルを作る技師(2020年5月,英ケンプリッジ) Kirsty Wigglesworth/REUTERS

[ロンドン発]徹底したゲノム解析で新型コロナウイルスの変異株をあぶり出し、世界中から注目されるイギリスのCOVID-19ゲノム・コンソーシアム(COG-UK)のシャロン・ピーコック議長(微生物学)らが5日、ロンドン外国人特派員協会でテレビ電話会議システムを通じて記者会見し、その秘密を披露した。

kimura20210206093701.jpg
シャロン・ピーコック議長(ZOOMミーティングを筆者がスクリーンショット)

ピーコック議長が5人の同僚に「ゲノムを解析してこのウイルスの変異をウォッチしよう」と電子メールを送ったのは昨年3月4日。英国内の感染者はわずか82人、国内初の死者が確認されたのは翌日のことだ。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は1週間後、パンデミックを宣言する。

その日、ピーコック議長ら20人が会議室に集まり、COG-UKの青写真を作った。4月1日、英政府とゲノム研究で世界的に有名なウェルカム・サンガー研究所などが2千万ポンド(約29億円)の研究資金を出した。英政府は2012年、10万人のゲノムを解析するプロジェクトをぶち上げるなど、ゲノム研究はイギリスの科学の大きな柱になっている。

結核菌のゲノム解析も日常的に行われ、多剤耐性も探知できるようになった。2014年に西アフリカでエボラ出血熱が大流行した時、現地での研究でパンデミックにおけるゲノム解析の重要性を肌で理解した。2001年には1件50万ポンド(約7200万円)もしたゲノム解析費用も50ポンド(約7200円)まで下がった。

コロナウイルスの変異は平均2週間に1度で、1週間に1度変異するインフルエンザウイルスに比べても遅い。当時は専門家の間にも「コロナウイルスには塩基の写し間違えを見つけて正しく置き換える校正機能が備わっている。ゲノム解析で変異を追跡しても大きな成果は期待できない」という後ろ向きな意見もあった。外部からは「カネと時間の無駄遣い」という辛辣な批判もあった。

「1億人が感染すればそれだけ変異の機会は増える」

ピーコック議長は筆者の質問にこう振り返った。「コロナはインフルエンザウイルスやHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に比べると変異するスピードはゆっくりだが、1億人が感染したことから考えるとそれは過小評価だ。感染するごとにウイルスは変異する機会がある」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story