コラム

日本が危ない!? 福島原発の放射能フェイクニュースが拡散中

2017年02月20日(月)19時02分

中国だけではなく、アメリカやオーストラリアに住む知人からも同様の連絡があった。どうやら英語でもこうしたウェブニュースが相当流れているらしい。いかがわしい媒体が書き立てているだけならばまだいいが、6日にはなんと中国外交部の定例記者会見でも取り上げられた。


Q:福島第一原発2号機の格納容器内で毎時530シーベルトもの放射線があるとの推計がでました。人間が浴びれば数十秒で死亡するレベルです。中国側は懸念しているのでしょうか? 中国国民の日本旅行に影響はあるのでしょうか?

A:関連報道には注目している。中国側は日本の福島原発漏出事故の影響を一貫して注視し、日本政府に対して速やかに対処し事後処理を行うよう、繰り返し要請してきた。核物質の漏出及び海洋環境、食品安全、健康に与える影響について、責任ある政府ならば注視を続けるであろうと確信している。どのような有効な対策を講じて漏出事故の影響を打ち消すのか、責任ある説明をするよう日本政府に希望している。これは日本国民に対する責務だけではなく、隣国の国民と国際社会に対する責務でもある。中国外交部はすでに関連する安全注意を公表している。中国国民は出国プランを適切に検討し、正しく防御策を講じると信じている。
中国外交部公式サイトより

12日には在日本中国大使館にもほぼ同様の警告が掲載されている。まるで日本旅行を取りやめるようにと勧めているかのようだ。中国の省庁という権威ある存在がこのようなメッセージを発しているのだからその影響は甚大だ。

原子力について知識のない中国人

私は何も原子力発電所が安全だと言いたいわけではない。福島原発事故の後処理には今後も長い時間が必要となるし、多くの技術的課題があることを承知の上だ。台湾の蔡英文政権は2025年までの原発全廃を決定したが、私は英断だと評価している。

だが原発のリスクをどう考えるかという話と、まるで日本に旅行すれば命に関わるかのように伝えるデマとは別の話だ。間違った情報、フェイクニュースに断固対応し、海外から風評が流れ込んでくる現状をなんとかしなければならない。

特に中国人は原子力についての基礎的な知識に欠けている。1979年のスリーマイル島原発事故、1986年のチェルノブイリ原発事故では、インターネットがない時代で中国の一般市民はほとんど海外ニュースに触れることはなかった。

中国人が初めて放射能の恐ろしさを知ったのは2011年の福島原発事故が初めてなのだ。知識がまったくなかったためパニックとなり、食塩の買い占めといったばかばかしい騒ぎまで起きた。

【参考記事】【写真特集】置き去りにされた被災者家族の願い

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story