コラム

中国TVの「日本の汚染食品が流入!」告発は無視できない重大事

2017年03月16日(木)17時48分

常に危険な食品に取り囲まれている中国人は噂に敏感

もともと中国国内の悪辣企業を批判するのが『315晩会』の趣旨だが、最近では政治的に活用され、外国企業のバッシングにも用いられるようになってきた。安全を重視する日本人が食べている食品に問題があるとは思えない。法令違反は事実だったとしても番組はミスリードと言うべきだろう。

怒りを覚えた私は「こんな政治化された番組内容はちゃんちゃらおかしい」と中国のSNSに書き込んだ。中国のネットユーザーから大バッシングを受けることを覚悟していたが、反応は意外なものだった。20万人を超える私のフォロワーたちもほとんどが同意見だったのだ。

ある在日中国人はこのようなコメントを残している。「私はこの6年間、東京で有毒食品とやらを食べていますが、元気ですけどね。PM2.5がひどい中国に残った友人はもう2人も死んでいるのに」

今回のCCTVはいかにも「小題大做」、つまり重箱の隅をつついた針小棒大な報道だ。情報に敏感なネットユーザーの多くは無理がある報道だと感じているようだ。

だからといって、安心はしないでほしい。一般の中国人は歴史ある『315晩会』の報道ならばと信じてしまう可能性も高い。何より常に危険な食品に取り囲まれている中国人は、なんらかの食品が危ないという噂にとても敏感だ。

嘘かもしれないが、よく分からないから買うのを控えようと考える人は少なくないだろう。また、日本の放射能問題が再びクローズアップされたことで、訪日旅行への影響が出ることも考えられる。

CCTVの報道にも問題を感じているが、それ以上に日本政府の「不作為」が残念だ。私は前々回のコラム「日本が危ない!? 福島原発の放射能フェイクニュースが拡散中」で、放射能問題について日本政府が積極的に情報発信することが重要だ、安倍晋三首相とまではいかなくてもせめて官房長官が日本の安全性をアピールするべきだ、と訴えた。

コラムだけではない。その後、TOKYO FMの番組「TIME LINE」にも出演し、再び日本政府に声明を出すよう訴えた。MCのちきりんさんからも「李さんの提言が政府に届けばいいですね」との言葉をいただいたが、いつまでたっても日本政府は動かない。在中国日本大使館がリリースを出したりはしていたが、それを見た中国人がどれほどいるだろうか。見せかけだけの対応で効果はなかった。

今回、私の危惧は現実となり、『315晩会』で取り上げられてしまった。かなりの影響が出ることは間違いない。黙って嵐をやり過ごそうなどという消極的な発想では後手を引くばかりだ。

攻めの政府広報が必要だということを日本政府はちゃんと認識してほしい。中国社会をよく理解し、日本のために働きたいと常に考えている「元・中国人、現・日本人」からのお願いだ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story