コラム

中高年もスマホで支払う中国、20年間もリニア実験中の日本

2017年07月12日(水)17時44分

中国人は利害得失に聡く、柔軟性がある(ただし、政治思想を除く)

なぜ、中国の変化はこれほどまでに早いのか。中国が一党独裁の政治体制であり、いまだに途上国だから――。これが最大の理由だろう。変えるべきことが無数に残っているから劇的に変化させていく、しかも政府が強い権力を持っているので強力に推進できるというわけだ。

もっとも、世界には独裁体制の途上国はいくらでもあるが、中国ほどの発展を実現した国はない。政府がどれだけ旗を振っても、人々がついていかなければどうしようもないためだ。そこで第2のポイントとなる。なぜ、中国の人々は新しい事物に適応し、受け入れられるのか。

教育レベルの高さなどさまざまな理由があるが、最大の理由は、中国の人々が利害得失に聡く、便利なものをまずは受け入れて使ってみようと考える柔軟性を持ち合わせているからではないか。

日本でもスマートフォンとそのサービスを使いこなせば生活が便利になることは明白だが、少しぐらい損しても面倒なことはしたくないという中高年がほとんどではないだろうか。社会もデジタルデバイド(情報格差)に配慮して、乗り遅れた人があまり損をしないような仕組みになっている。

それに比べ中国では、便利になるのなら、お金が節約できるのなら、難しくてもともかく使ってやろうというチャレンジ精神に満ちた人が多い。スマホ万能の社会が到来するなか、使えなければひたすら不利益を享受することになる。

例えば自動販売機。中国にはスマホ払い専用の自動販売機まで存在する。スマホを持っていなければ、そこで水を買うことすらできないわけだ。日本にそんな自販機が存在したら怒り出す人が現れそうなものだが、中国では許されている。残酷に思えるかもしれないが、時代から取り残されたならば個人の責任だという意識が共有されているように感じる。

ただし、スマホなど新しいテクノロジーを受け入れることにはこれほど柔軟な中国人だが、こと政治思想に関してはともかく保守的だ。経済は改革開放されたというのに、思想は凝り固まったままなのだ。

私は自分が日本で体験した民主主義の素晴らしさを伝えることで、彼らの頭を柔らかくしていきたい。私一人の力では不十分だろうが、私の考えを知った人が10人、100人、1000人、1万人と増えていけば、彼らも伝道師として周囲に伝えていってくれるはずだ。

そう信じて私は今日もスマートフォンで書き込みを続けている。SNSを通じて中国の若い人々に思いを伝えることができるはず。57歳の私も新しいテクノロジーの力を信じている。

【参考記事】中国のイノベーション主導型成長が始まった

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産

ビジネス

焦点:米国市場、FOMC後も動揺続く恐れ 指標の注
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story