コラム

「テロ支援国家」スーダンはなぜイスラエルと国交正常化するか

2020年10月27日(火)14時00分

国交正常化合意は、端緒についたばかりの民主化を危うくしかねない(写真は10月21日、首都ハルツームで行われた生活改善を求めるデモ)  MOHAMED NURELDIN ABDALLAH-REUTERS


・UAE、バーレーンに続き、スーダンもイスラエルと国交を正常化するとトランプ大統領は発表した

・イスラーム圏でイスラエルを承認する国が増えれば、中東和平に道筋をつけられるとトランプ大統領は強調する

・しかし、それはスーダンにとってリスクが高いもので、アメリカにつき合わされた結果といえる

スーダンがイスラエルと国交を正常化することは、中国寄りの「独裁者」の支配からようやく抜け出したスーダンが、今度はアメリカ大統領選挙のあおりを受けた結果といえる。

アメリカにつき合わされたスーダン

トランプ大統領は10月23日、スーダンがイスラエルと国交を正常化すると発言。9月のアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンに続き、スーダンがイスラエルと外交関係を樹立することで中東和平が前進すると主張し、仲介した自らの成果を誇った。

イスラエルとアラブ諸国は、パレスチナの領有をめぐって長年対立してきた。アラブ諸国の間からイスラエルと国交を樹立する国が増えることで、中東におけるイスラエルの孤立が解消されるのは間違いない。

それを仲介したことで、大統領選挙が大詰めを迎えるなか、トランプ大統領は外交面でポイントをあげたといえる。

一方、大得意のトランプ大統領とは裏腹に、スーダンは大きなリスクを背負うことになった。イスラエルに譲歩することは、イスラーム世界において「裏切り者」の誹りを受けやすいからだ。

パレスチナのアラブ系住民はイスラエルに軍事力で支配されている。この状況で、イスラエルを支援するアメリカの仲介で国交を正常化することは、イスラームの同胞、アラブの兄弟を見捨てることにもなる。

中国寄り「独裁者」の清算

それでは、なぜスーダンはトランプ大統領につき合うのか。そこには、現在のスーダンが中国寄りだった前政権の遺産を清算しなければならないことがある。

スーダンでは2019年4月、約30年にわたって権力の座にあったバシール大統領が失脚した。原油価格の下落などによる生活苦が広がり、抗議デモが活発化するなか、軍の一部が離反した結果だった。

バシール大統領の在任中、スーダンはアメリカと敵対し、「テロ支援国家」にも指定されていた。これに対して、バシールは中国に接近し、アメリカからの圧力から身を守ろうとした。その見返りに中国はスーダンの油田開発で大きなシェアを握り、同国産原油の多くが中国に向けて輸出されたのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産

ビジネス

焦点:米国市場、FOMC後も動揺続く恐れ 指標の注

ビジネス

住商、マダガスカルのニッケル事業で減損 あらゆる選

ビジネス

肥満症薬のノボ・ノルディスク、需要急増で業績見通し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story