コラム

オスカー作品賞「誤」発表の大トラブル、その時何が起こったか

2017年02月28日(火)15時40分

作品賞というのはプロデューサーに授与されることになっています。2人の大物俳優からオスカー像を渡されて、まずジョーダン・ホロウィッツというプロデューサーが、喜びとともに謝辞を述べました。チャゼル監督、そして主演のゴスリングとストーンも、感極まった表情でその後ろに立っていました。

続いて、もう一人のプロデューサーのフレッド・バーガーが、同じようにオスカー像を手にして挨拶を始めたのですが、このあたりから、舞台の上が妙な雰囲気になっていったのです。スタッフが走り回る中、『ラ・ラ・ランド』のスタッフの中から「Lost!(賞が取れなかった)」という叫びが聞こえたと思うと、少し前に歓喜の挨拶をしたプロデューサーのホロウィッツがバーガーの挨拶を止めさせたのです。

【参考記事】アカデミー賞を取り損ねた名優、名子役、名監督......

そしてホロウィッツは「違う。『ムーンライト』だ。勝ったのは皆さんの方だ。これはジョークじゃない、本当だ」と言って、「作品賞授賞『ムーンライト』」とハッキリ表記してある「赤い封筒の中のカード」を掲げたのです。中継のカメラが、そのカードを大写しにすると、確かに「作品賞『ムーンライト』」と書かれていました。

場内が騒然となる中、『ラ・ラ・ランド』のスタッフとキャストは整然と降壇していくのと交代に、今度は「まだ何が起きたのかよく分かっていない」という表情で、バリー・ジェンキンス監督以下、『ムーンライト』のチームが登壇していったのです。

ジェンキンス監督以下の関係者はオスカー像を手にしつつ、それぞれに感動的なスピーチを行い、会場もその結果に惜しみない拍手を送り、セレモニーは最終的には大団円ということになりました。ちなみに、その中でベイティは「自分の受け取ったカードには実は『主演女優賞 エマ・ストーン ラ・ラ・ランド』と書いてあったんです。おかしいと思ったので何度も見返してしまいました」と弁解しており、とりあえず番組内で、辻褄の合う説明がされた格好になっています。

司会をしていたコメディアンのジミー・キンメルは、「これはスティーブ・ハーベイのせいだ」というジョークを言っていましたが、これは同業のハーベイが2016年のミス・ユニバースを司会していた際に優勝者のアナウンスを間違ったことを指しています。ハーベイの場合は「次点1位、次点2位が上に書いてあり、チャンピオンは右下」という変則的な書き方をしたカードを手にしたために「つい『1位』とあった別の国の女性を指名してしまった」というミスでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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