コラム

ダボス会議でも一般教書でも、トランプが真面目モードだったのはなぜ?

2018年02月01日(木)11時40分

お馴染の暴言モードは今回の一般教書演説では封印 Win McNamee-REUTERS

<大統領選以来、真面目モードと暴言モードを行ったり来たりしてきたトランプ。しかし注目のダボス会議でも一般教書演説でもマジメ一辺倒だった>

就任前の選挙戦の時代からそうですが、ドナルド・トランプという人の演説や態度というのは、「真面目」モードと「暴言モード」を行ったり来たりするのが特徴でした。

一番ダイナミックだったのは、2016年11月の選挙で劇的な勝利を収めたときで、未明に当確が流れる中での「勝利演説」では、それまでの暴言モードを封印して、「社会の和解」を訴えたのでした。これには世界中がビックリして、「トランプ当選」でパニック売りの出ていた東京市場を横目に、演説を好感した欧州市場は一気に株高になり、そのトレンドがNYに引き継がれて現在に至る「トランプ株高」になっています。

ところが、それから2カ月後の2017年1月の就任式では、全世界にテレビ中継される最高の舞台であるにも関わらず「オンリー・アメリカ・ファースト」という、「おどろおどろしい暴言モード」演説を公式の晴れの舞台で行って、世界を呆れさせました。

その後も、真面目なスピーチをしたかと思うと、その舌の根も乾かないうちに暴言ツイートを連発したり、とにかく「真面目」と「暴言」を行ったり来たりするというのが、この大統領のスタイルになっていました。

一つの見方としては、真面目モードは経済界とか国際社会、あるいは伝統的な共和党支持者向けで、暴言モードは「コア支持者向け」であり、両者をスイッチすることで、両方の支持を抱えようとしている、そう見ることができます。

その一方で、この大統領は気分のおもむくままに発言するのがスタイルなので、性格の違う支持グループを抱え込むために、モードを変えるなどという「器用なこと」はできないし、していないという説もあります。

他の見方としては、ケリー首席補佐官がしっかり見張っていて、スピーチライターが固めた「原稿通りにやって下さい」とクギを刺した場合は「真面目モード」になるが、ケリー氏の目を離れたところで、ヒックス広報部長などと衝動的にツイート発信を行うときには「暴言モード」になるという説もあります。

この点については、衝動的なツイートだけは「禁止できない」と、大統領としてはケリー氏を含む歴代の首席補佐官に認めさせていることもあるようです。

そんなわけで、真面目の次は暴言ということで、「交互にやる」とか「真面目だけだと我慢ができずに暴言が飛び出す」というのが、確立されたパターンだったわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story