コラム

9・11の英雄ジュリアーニは、なぜトランプと手を組んだのか?

2020年12月08日(火)16時45分

11月19日に行った大統領選の不正を追及する訴訟についての会見で、染めた髪から黒い汗を流すジュリアーニ Jonathan Ernst-REUTERS

<動機は、過去のメディアへの怨念か、訴追逃れか、それともただの金目当てか>

トランプ米大統領の私的な顧問弁護士を務めるルドルフ(ルディ)・ジュリアーニは、12月6日に新型コロナウイルスの検査で陽性とされ、入院したと報じられました。病状については軽症と伝えられています。同弁護士は、11月3日の大統領選以来、多くの州における「投票結果への異議申し当て訴訟」を担当し、記者会見などで繰り返し選挙結果を批判する姿は世界的にも有名になりました。

そのジュリアーニといえば、ニューヨーク市の市長時代が有名です。1994年から2001年まで市長を務めた際には、当初は市内の治安回復(それ以前の検事時代を含む)に功績があるとされ、また退任直前の2001年9月11日に発生した「9・11テロ」で被災したニューヨークにおいて、卓越したリーダーシップを発揮したとして、国際的にも高い評価を得た人物です。

特に9・11の直後には、毎日の定例会見で、時間制限をすることなく丁寧に質問に応えるとか、殉職した消防士や警察官の遺族が死亡認定を受け入れるまで静かに待ち、最後に葬儀が行われた際には必ず列席するといった姿勢が世界中の人々に感動を与えました。

また、被害を受けたニューヨークの復興については、当時のジョージ・パタキ知事(共和党)、チャック・シューマー上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)、ヒラリー・クリントン上院議員(同じくニューヨーク州選出、民主党)などと共に、超党派で努力をしていました。

危機管理の専門家に

そのジュリアーニは、市長退任後は「危機管理の専門家」として国際的に活動し、テロ対策などについて講演行脚の毎日を過ごしていました。「ジュリアーニ・セキュリティ&セーフティ」というコンサル会社を設立して、日本もその活動対象としていた時期があります。

国際的な著名人となったジュリアーニは、そのまま「9・11からニューヨークを救った英雄」「危機管理のプロ」という名声、それも最大限の名声に包まれてキャリアをまっとうすれば良かったわけです。それが、どういうわけかトランプ陣営に参加し、ロシア疑惑や、元ポルノ女優とのトラブルなどを扱っているうちに、とうとう選挙結果の訴訟を一手に引受けて、しかもその結果は現時点では完敗に近い状態に追い込まれています。

考えてみればトランプは、ニューヨーカーの著名人の中で最も「9・11テロに冷淡」な人物として知られていました。テロ防止活動にも、復興支援にも冷淡でしたし、極めつけは「9・11はブッシュ大統領の自作自演」だという陰謀説を面白半分に吹聴していた時期もあるわけです。

ジュリアーニは、どうしてそんなトランプと組むに至ったのでしょう。考えられる要因としては次の4つが考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story