コラム

瞬速で銀行破綻、瞬速で危機対応......フィンテック時代の金融のスピード感

2023年03月15日(水)16時45分

破綻のニュースを聞いてシリコンバレー銀行の支店に詰め掛けた顧客 Brian Snyder/REUTERS

<電子取引の普及が進むなかで、銀行破綻も危機対応も今までとは全く違ったスピードで進む>

3月9日(木)カリフォルニアの中堅地方銀行であるシリコンバレー銀行(SVB)の株が暴落、同時に同行からは猛烈な勢いで預金が引き出されました。翌日10日(金)になると、同行は休業に追い込まれ事実上の破綻状態になりました。ショックは証券市場全体に広がり、この2日間でダウ平均は約1000ドル下げています。週末の間は、悲観論、楽観論が交錯するなか、さらにニューヨークのシグネチャー銀行も同様に休業となりました。

これを受けて、13日月曜の朝、証券市場が開く前の時間帯にバイデン大統領が緊急会見を行って「破綻2行に関して、預金は全額を預金保険機構により保護」「但し、経営陣は退陣、株主への救済はなし」という明確な方針を宣言したところ、株価は安定しました。それでも、13日には、他の数行の地銀の株価が暴落しました。リージョナル銀行などは、60%を超える下落になりましたし、大手銀行も株を10%近く下げるなど銀行株をめぐって波乱が続きました。

一気に状況が落ち着いたのは現地14日(火)です。前日には経営内容が懸念されて株が暴落した地銀については、例えばリージョナル銀行の場合は時間外取引を含めて40%上昇するなど、今度は株価が暴騰。市場全体も大きく上げています。ということで、とりあえず危機は脱したと見ていいようです。少なくとも「リーマン級」のショックということは、今回はなさそうです。

そこで、少々性急ではありますが、今回の「銀行危機」の教訓を考えてみたいと思います。今回の教訓ということでは「スピード感」ということに尽きると思います。

透明性の行き過ぎ?

まず、何よりも、破綻のプロセスが急でした。

SVBの場合は銀行なので、預かった預金を運用しなくてはなりません。日本でも全く同じですが、貸し出しに加えて、自国の国債などの安全な金融商品で回すことになります。ところが、ここ数カ月、中央銀行にあたる連銀(FRB)が一気に金利を上げたため、国債などの債券の市場価格は下落しました。通常は、金利上昇に対して債券に投資している元本を守るためには、ディーラーによる細かなマネジメントが必要ですが、SVBの場合はここで失敗して大きく資産価値を減らしていたのでした。

ここまでは、一般的に世界中の銀行で、いつでも、例えば20世紀の昔でも起き得た話です。

ところが、そんな中で、SVBの場合は、資産価値の下落を隠したわけではありませんでした。反対に、ネガティブ情報を相当に正直に公表していたのです。この点については、2008年のリーマンショックの際に施行された、銀行により透明性を求める規制が効いていたという意見、いや反対に透明性を正直に実行しすぎて破綻したので規制の制度設計が悪いという説もあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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