最新記事

経営

ダン・アリエリーが示す「信頼される企業」の5要素

情報を隠し通せない現代のビジネス環境では、顧客と信頼関係を築くことが不可欠。そのために企業に求められるものとは?

2016年4月14日(木)15時52分
ダン・アリエリー ※編集・企画:情報工場

顔の見える企業になるために 行動経済学の第一人者である米デューク大学のダン・アリエリー教授は、「長期的な関係」「透明性」「意図」「報復」「動機との合致」の5要素を挙げる Mateusz Rzewuski-iStock.

 20世紀の海運王であるギリシアのアリストテレス・オナシスは、「ビジネスを成功させる秘訣は、誰も知らないことを知ることだ」と言った。これは一つの真理には違いない。だが、今ではインターネットのおかげで、情報を手に入れることが当時と比べて格段にたやすくなった。情報が「ガラス張り」ともいえる現代のビジネス環境では、「誰も知らないことを知ること」は非常に難しい。

 そのような状況では「信頼」こそが重要だ。「信頼」は、現代の私たちの新しい「通貨」ともいえる。  

 人間は生まれながらに互いに「信頼」し合う生き物だ。誰もが、ちょっとトイレに行くときに荷物を見張ってもらったことや、家を留守にする際、ご近所に一声かけて出かけた経験があることだろう。他者への「信頼」が、人間の性質としてもとから備わっているからこそ、eBayやAirbnb、Uberのような新しいビジネスが成功しているともいえる。

【参考記事】今こそ持続可能なグローバルビジネスを

 人が互いに「信頼」し合う生き物であることを示す、興味深い実験がある。被験者は見知らぬ人とペアになり、10ドルを渡される。そしてその10ドルを自分で持っていてもいいし、一部をペアとなるパートナーに渡してもいい、と伝えられる。お金を渡されたパートナーは、渡された金額の3倍を受け取ることができる。そして、そこから好きな金額を渡された相手に返すことができる、というのが実験のルールだ。

 経済理論からいうと、渡す側は自己の利益を確保するため、いくら返してくれるかわからないパートナーには、お金を1ドルも渡さない選択もできる。しかし実験では、大半のケースで相手にお金を渡すことが判明した。それだけではない。パートナーは信頼に応えて、約半数が、渡された額より多い金額を返したというのだ。

 この結果は、不合理に見えて実は理にかなっている。信頼し合えるコミュニティーで生きることは、自身の生存にとって有利に働くからだ。

 個人同士であれば、このような信頼関係を成立させるのは、さほど難しくないかもしれない。しかし、相手が企業だとしたらどうだろう。信頼を築くのは、個人同士よりもずっと厄介なものとなる。なぜなら、企業は、"顔の見えない"存在だからだ。

【参考記事】ソーシャル時代には「オンリーネス」を発揮せよ

 逆に、企業側が顧客と信頼関係を築くにはどうすればいいだろうか。ここで重要となる要素が5つある。「長期的な関係」「透明性」「意図」「報復」「動機との合致」だ。

(1)長期的な関係

 経済学者・社会科学者のジェームズ・アンドレオニ教授とジョン・ミラー教授は、他者への信頼には「人間関係の長さ」が影響することを証明した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中