最新記事

軍事

ロシア「違法民兵」に医療支援 軍事作戦への非公式動員実態

2020年1月20日(月)10時40分

ロシアの民兵が海外での軍事ミッションに加わり、同国上層部から間接的な支援として医療の提供を受けていたことがわかった。写真はロシア国旗とクレムリン。2019年2月、モスクワで撮影(2020 ロイター/Maxim Shemetov)

昨年10月末、ロシアのサンクトペテルブルク市内のある診療所の裏庭で、民間軍事会社の指揮官だったという包帯姿の人物がロイター記者にこう語った。「ロシア政府の権益を守るために国際テロ組織と戦っていた」。同氏の腕には複雑骨折の治療に使われる金属製の固定器具が装着されていた。

負傷の詳細については口が重いこの人物は、アレクサンダー・クズネツォフ氏。ロイターの取材によると、同氏は海外での戦闘にも従事するロシア系民間軍事会社「ワグナー」の一員で、リビアでの戦闘中に負傷した攻撃部隊の指揮官だった。

ロシアでは、正式な軍隊に属さない市民が民兵として武力紛争に参加することは違法だ。そして、同国政府はこうした民兵がリビア及びシリアを含む国外での戦闘を肩代わりしている、との指摘を否定し続けている。

しかし、現実には、ロシアの民兵は海外での軍事ミッションに加わり、同国上層部から間接的な支援として医療の提供を受けていた。この診療所の存在がその実態を裏付けている。

政府側は関与を否定

この診療所が開設されたのは2010年。保有企業は大手保険会社のAOソガズ(SOGAZ)だ。同社がロシア全国で展開している系列民間医療施設の1つで、ウラジミール・プーチン大統領との人脈を持つ人物が共同オーナー兼経営者となっている。

同診療所が国外で負傷したロシア軍民兵への医療支援の場となっていた事実は、治療を受けた民間軍事会社社員を知る3人の人物、診療所職員、記者による目撃、そして法人記録から明らかになった。

ワグナーの元戦闘員によれば、ソガズの診療所は遅くとも2016年にはワグナー戦闘員向けの治療を開始していた。彼は負傷した他の民兵5~6人とともに、ここ数年、同じ診療所で治療を受けていると話した。別のワグナー社員もシリアで重傷を負った後、同診療所で治療を受けた。どちらのケースでも医療費を負担する必要はなかったという。

ロイターなどのメディアがすでに報じているように、ロシアの民兵はシリア及びウクライナでひそかに正規軍を支援して戦闘に参加している。その民兵を募集しているのはワグナー・グループなどの民間軍事会社だ。

かつてワグナーに所属していた2人の元民兵によれば、同社に所属する戦闘員はリビアにも配備され、東部の軍閥ハリファ・ハフタル氏を支援していたという。ハフタル氏は、トリポリに置かれた国際的に承認されたリビア政府を相手に戦っている。

しかし、ロシア政府は民兵の投入を否認しており、ウクライナやシリアで戦っているのは義勇兵であると説明する。

プーチン大統領は、ロシアの民間軍事会社について、治安任務を担当しているだけで、政府や軍とも何ら関係はなく、戦闘参加によってロシア法に違反しない限り、どの国においても彼らが働く権利はある、と語った。

「西側メディアの報道を信じるのか。何でも信じてしまうのか」。プーチン氏は昨年12月19日の記者会見で、リビアにロシアの民兵が存在するかと質問した記者に、こう問い返した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EUのグリーンウォッシュ調査、エールフランスやKL

ワールド

中南米の24年成長率予想は1.4%、外需低迷で緩や

ビジネス

ユニバーサル、TikTokへの楽曲提供再開へ 新契

ビジネス

海外旅行需要、円安の影響大きく JAL副社長「回復
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中