最新記事

新型肺炎:どこまで広がるのか

新型コロナウイルス、ワクチン実用化は近づいているのか

Searching For a Vaccine

2020年2月14日(金)16時15分
シャノン・パラス(科学ジャーナリスト)

感染を調べる検査キットの開発も進行中(江蘇省) COSTFOTOーBARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

<開発途上のSARS用ワクチンを応用する動きもあるが、効果と安全性を見極めるには時間と資金が必要......本誌「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集より>

新型コロナウイルスの感染予防には、米テキサス州の冷蔵庫に眠っているワクチンが役に立つかもしれない。問題は、現時点では「かもしれない」としか言えないことだ。

このワクチンは、コロナウイルスの一種であるSARS(重症急性呼吸器症候群)用として2010年代初めにベイラー医科大学のピーター・ホテズ教授が開発した。臨床試験にまで至らなかったのは、手洗いなどの公衆衛生指導や、低温で乾燥した冬が過ぎたことによって流行が収まったからだ。

20200218issue_cover200.jpg

いまホテズは、このワクチンの研究を前進させたいと考えている。新型コロナウイルスとSARSに共通点が多ければ、SARS用ワクチンで作ったものと同じ抗体で、コロナウイルスの表面にある冠状の突起を捉え、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐことができるかもしれない。

ホテズのほかにも、多くのグループがワクチン開発を進めている。ホテズと同じく、SARS用ワクチン研究の応用を目指す製薬会社もある。

ただし実用化には、しばらく時間がかかるだろう。その前に新型コロナウイルスの流行が収まるかもしれない。ホテズのSARS用ワクチンの研究は、流行が収まると研究資金が枯渇し、研究途上のワクチンは冷蔵庫行きとなった。今回も同じ道を歩むのか。

ホテズらはSARA用ワクチンの動物への有効性は確認していた。その脅威が去った後も、ヒトへの安全性と効果を確かめるために臨床試験を行いたいと考えていた。類似のウイルスも含めた再流行に備えて、ワクチンを備蓄しておきたかったのだ。それが2016年のことで、その頃は、コロナウイルスの一種とされ、動物からヒトに感染するMERS(中東呼吸器症候群)の流行がもう何年も続いていた。

だが当初の研究資金が尽きる頃には、脅威が去ったSARSへの関心は薄れていた。「資金が集まるのは流行している最中だけ」と、ホテズは言う。追加資金を調達できなかった彼は、ワクチンを冷蔵庫で保管し、保存状態を定期的にチェックした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の

ビジネス

中国不動産株が急伸、党中央政治局が政策緩和討議との

ビジネス

豪BHP、英アングロへの買収提案の改善検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中