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中国航海士・笈川幸司

笈川幸司|中国

第13回 中国における日本語教育のいま。その2

どこの街かを書けば、どの学校か察しがつくといけないので書かないが、その学校の職員から直接聞いたことに少し触れたいと思う。このことを、この学校の他の職員に聞いたところ、「驚くことでもない」という返答、そして、そっけない反応だった。従って、これから説明することが、地元の人にとっては、特殊で驚くべき例でないということも付け加えておきたい。

入学時、受験の点数が何点かを問われずに入学できる私立高校。そこの生徒たちは比較的裕福な家庭の出が多いようだ。生徒たちは、普段から特に財布の中を気にすることもなく、ファーストフードで食事ができる。その高校の先生の話では、不良生徒が多く、教師の話をあまり聞かないという。宿舎があり、週末は帰宅できるが、平日は出入り口が一つしかない寮で厳しく管理されている。夏の教室はエアコンが効いていて、カーテンを閉めた暗い教室にいると、大人でもついウトウトしてしまう。授業の様子を見たことがあるが、半数の生徒は机に顔を押し付けていた。教師は「顔を上げろ」とは言わず、淡々と授業を進めていた。

そこまでは、勉強嫌いが集まる高校ではよくある光景かもしれない。さて、わたしが驚いたのは、この高校の職員のひとことだ。

「この学校の教師は、生徒の成績が良くなり、生徒の態度が良くなることを望んでいない」

わたしは意味がわからなかった。そこで、詳しく聞いてみた。例えば、ある男子生徒が、校則違反であるケンカをすると、担任教師は、その生徒の保護者に連絡する。いろいろと話をして、保護者がウィーチャットで担任の先生にいくらか送金すると、その一件をもみ消してもらえるという暗黙のルールがあるという。タバコもそう、赤点もそう、成績の悪い生徒から副収入が得られるというのだ。しかも、その金額は給料よりも多いという。

いまの例は単に一例にすぎない。その奥には、さらに大きな問題が複雑に絡み合っていて、たとえ一人の担任教師にやめてもらったところで、状況が変わるわけではないという。改善できない高校があることを知っておくのも大事だと思う。

大学受験の外国語科目はほとんどの場合英語だが、最近は日本語を選ぶ学生が増えている。前回話した通り、日本語を選ぶ高校生は、決して成績の良い学生であるとは言えない。彼らを教える教師たちも、ストレスに押しつぶされないように毎日必死に生きている。現実逃避したくなるのも仕方がない。ある日本語教育機構の代表の話によると、いま、中国では空前の日本語ブームだという。しかし、あまりにも適当に教育しているところが多く、このブームが去れば、ほとんどの機関は淘汰されるそうだ。

一部の日本人は、「日本人はどうだ」「中国人はどうだ」と一方的に決めつけるそうだが、気をつけなければいけないのは、日本人も中国人もいろいろいるという点だ。クオリティを考えずに適当にやって、ブームが過ぎたら淘汰されるほうばかりを見て、「ほら、やっぱり中国人は......」と言って溜飲を下げるのはもうやめにしたい。

大学受験用日本語教育を救うのは日本の予備校スキル

多くの生徒は受験テクニックを知らない。日本語に関するノウハウがない。詰め込み教育でやってきた高校の日本語教師も受験テクニックを知らない。だから自分も含め、生徒たちはどこが苦手で、どうすれば改善できるかがわからない。授業の目的は、その日決められた内容を学生たちに説明することに徹していて、学生たちがどこまで理解し、小テストをして何点以上取れたかなどどうでも良いのだ。間違いやすいところをまとめた一問一答式の副教材を誰も作ろうとしない。赤シートもない。言葉を換えれば、ポテンシャルにあふれた状況なのだ。

この半年間、日本の受験テクニックを応用し、日本語教育用に作成した副教材を使って日本語教師研修を行なっている。受験テクニックを知らない世代に受験テクニックをマスターしてもらうには時間も労力も必要で、随分時間がかかったが、ようやく最近になって理解が得られ、こちらが作成した副教材を授業中に使ってもらえるようになった。教師一人一人が副教材を自分で作成できる段階には至っていないが、それでも一つの進歩だと言える。

どの高校も、「まずは協定校との契約だ!」と考えるものらしいが、まずは中身。中身がしっかりしてきたら、協定校との契約は難しくないだろう。

 

Profile

著者プロフィール
笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。中国滞在20年目。北京大学・清華大学両校で10年間教鞭をとった後、中国110都市396校で「日本語学習方法」をテーマに講演会を行う(日本語講演マラソン)。現在は浙江省杭州に住み、日本で就職を希望する世界中の大学生や日本語スキル向上を目指す日本語教師向けにオンライン授業を行っている。目指すは「桃李満天下」。

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