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中国航海士・笈川幸司

笈川幸司|中国

第20回 中国で日本語を教えている教師からの質問①

中国で日本語を教えている教師からの質問①

現在、中国における日本語教育に関わらせていただいている。

中国の大学の日本語学科への支援の他、オンライン日本語学校や多くの高校で日本語クラスが設置されているため、教育機関の顧問をしている。

本日は、日本語を教えている教師の悩みと解決策をご紹介したい。

以下の問題は、中国の大学、高校、専門学校、日本語学校を問わず、どの日本語機関でも起こりうる問題であり、多くの日本語教師が抱えている問題である。

日本語教師:「レベルの上昇につれて、学生の学習意欲は明らかに下がっています。学生の意欲を高めるにはどうすれば良いでしょうか」

学生たちの日本語学習歴が長くなるにつれ、学ぶべき項目は増えていくが、「できること」は一向に増えない。つまり、すでに学んだ内容は、中上級だとしても、「わかること」「わかったこと」は初級かそれ以下のレベルで、「できること」「できたこと」は入門レベルから変わらない。そのため、現実的な現代の若者たちは、「このまま日本語を勉強し続けても、明るい未来が見えてこない!」と考え、学習意欲がなくなっていくのだろう。

20年前の学生は、大学生活が多忙でなかったため、その日習った内容を予習、復習する時間がたっぷりあった。新出単語や新しい文法、本文を暗記する時間もあった。つまり、毎日「できること」がたくさんあったため、日本語学習歴が長くなっても学習意欲が落ちることはなかった。しかし、いまの学生は、ある統計によると、スマホを見る時間が平均六時間、その他、学生会参加、旅行の計画、恋愛にかかる時間が増え、学校で学んだことを予習、復習する時間が足りないため、「できること」を増やすチャンスがない。この問題を解決するには、授業で「できること」を増やすしかないのだが、すでに十分な実績と権威があり、伝統的な中国における日本語授業のスタイルを変えるのは難しい。したがって、授業中に学生が「できること」は今後もほとんどないだろうし、日本語教師の悩みが解消されることもないのではないだろうか。なぜなら、実績も権威もあり、伝統的な中国における日本語の授業というのは、学生が「予習と復習をする」という絶対条件のもとで成立する授業方式だからだ。

旧態依然の授業のスタイルを変えない限り、現況を変えることはできないだろう。実は、この二年、北京師範大学の二年生を見てきた。彼らの日本語力、つまり発音の良さ、文法の誤りなしに例文を作ること、授業への積極性などを含めた日本語総合力でいえば、他校の4年生よりもはるかに高いレベルにあると感じている。実際、北京師範大学の日本語授業のスタイルは、教科書も含め、他校とは違ったものになっている。これは断言できることだが、旧態依然の授業法で、北京師範大学と同じように日本語レベルの高い教室運営をしている大学は皆無であると思う。もしあるとするなら、全く新しい教室運営をしている大学に限られると思う。

授業のあり方を変えなければならない

現在、北京大学日本語学科に所属している駒澤千鶴先生は、私の日本語教育の師匠でもあり、私の授業スタイルとは違うが、学生は「できること」が多く、学習歴が長くなっても学習意欲は下がっていない。

授業の時間内で、「暗記ができた」「正しいアクセントで朗読できた」「例文を作ることができた」「人前で緊張せずにスピーチができた」など、「できること」を増やすこと。これが、いまの日本語教師の悩みを解決する唯一の方法であると思う。

日本語教師:「使用語彙が少ないため、学生たちは単語を覚えることの重要さを意識していません。そこで、単語の重要さを伝えるため、授業中に単語の説明をもっと行った方が良いでしょうか」

単語、文法を覚えることは大事だ。単語、文法は体でいえば、肉、細胞のような働きをするから、肉がない体は細く、ガリガリで、頼りない。筋肉がついていないと、頼もしく思えない。しかし、学生たちは単語を覚えようとしない。なぜなら、終わりが見えないからだ。どれだけ覚えたら自由に話すことができるのか、学生たちは知らないし、単語を暗記する秘訣も知らない。学習効率が低く、勉強そのものを楽しいものだと感じることができないのだ。

学生たちは今、日本語学習を続けながら絶望感を抱いている。その気持ちを、日本語をマスターした教師、あるいはそこまでいかなくても、学生時代から成績が良かった教師は理解することも、学生の気持ちに共感することもできない。だから教師は「困った、困った」と言うばかりだ。

単語や文法を暗記できない学生たちに、教師は何をしてあげられるか、考えてみよう。日本語教師が新しく10個の単語を暗記するには、1、2分の時間があれば十分だ。しかし、基礎のない学生が10個の単語を暗記するには、20分かそれ以上かかるかもしれない。しかも、暗記の秘訣も使わずに丸暗記しようとすると、脳に負担をかけてしまい、その結果、単語を暗記することを、精神的に苦しいと感じるようになる。そのまま行けば、その学生は、勉強嫌いになってしまう。

まず、学生には、朗読することをお勧めしたい。頭を使わずに口を使うのだ。たとえ、アクセントを間違えていたとしても、たとえおかしな発音だったとしても、声に出して単語を朗読するのは、記憶力を高めるのに役立つ。さらに、日本語の単語を読み上げた後、中国語の意味も声に出すことをお勧めしたい。何も考えず、50個の新出単語を、日本語、中国語の両方を読み上げる。これを、頭を使わずに10回繰り返すと、ほとんどの単語は、記憶しようとしなくてもある程度記憶できる状態になっている。これは、硬い肉を飲み込むのではなく、柔らかくなるまで口の中でかみ続ける作業と同じだ。頭を使う必要はない。ある程度肉が小さく、柔らかくなったところで、暗記を始めると、自分が予想していたよりもずっと簡単に暗記できるのだ。しかも、中国語の意味まで暗記できるため、その内容だけに限っていえば、同時通訳までできるレベルに達している。そして、朗読、暗記を始める際には、右手にストップウォッチを持つことをお勧めしたい。ストップウォッチがないなら、スマホを使えば良い。時間を計ることで、朗読のスピードが上がり、流暢に朗読できるようになる。反応が早くなり、中国語の意味もすぐに言えるようになる。一番の特徴は、暗記できたときに「自分はこんなにたくさんの単語を覚えることができた!」という自信がつくことだ。単語や文法、本文の暗記ができないと悩む学生の問題を解決するのが「朗読」である。

この方法は、日本語を学ぶ中国人向けの方法だけに止まらず、英語を学ぶ日本人にもそのまま使うことができる。次回は、学生の心を傷つけずに伸ばす方法について話していきたい。

 

Profile

著者プロフィール
笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。中国滞在20年目。北京大学・清華大学両校で10年間教鞭をとった後、中国110都市396校で「日本語学習方法」をテーマに講演会を行う(日本語講演マラソン)。現在は浙江省杭州に住み、日本で就職を希望する世界中の大学生や日本語スキル向上を目指す日本語教師向けにオンライン授業を行っている。目指すは「桃李満天下」。

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