コラム

LLMはOS、エージェントはアプリ

2024年04月04日(木)14時00分
(写真はイメージです) a-image-Shutterstock

(写真はイメージです) a-image-Shutterstock

<モバイル時代のアプリに相当するものがAI時代にはエージェントになる>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

AI時代の業界勢力図を理解する方法として、大規模言語モデル(LLM)を基本ソフト(OS)としてとらえる考え方が一部で広まっている。米シリコンバレーの著名ベンチャー・キャピタルのSequoia Capitalのイベントに登壇したOpenAI共同創業者Andrej Karpathyがその考え方をベースにAI業界の現状を解説している。

パソコン時代のOSと言えば、MicrosoftのWindowsが圧倒的勝者。AppleのMacOS、オープンソースのLinuxは及ばずも健闘している。モバイル時代のOSは、AppleのiOSとGoogleのAndroidの2強。

一方AI時代はというと、Karpathy氏の言うようにAI時代のOSがLLMだとすれば、2024年3月現在ではAnthropicのClaude3を頂点として、OpenAIのGPT-4、GoogleのGeminiが先頭グループ。その後ろをInflection AIのLLM、MetaのLlama2、MstralのLLMなどが追いかけている感じだろうか。InflectionのCEOを含む主要経営陣がMicrosoftへ移籍するなど合従連衡が続いているが、AmazonがAnthropicへ追加投資したことで、OpenAI + Microsoft連合 vs Anthropic + Amazon連合 vs Googleという三つ巴の戦いになりそうな雲行きだ。それに加えてMetaやMistralなどのオープンソースの動きも気になるところだ。

一方でKarpathy氏によると、モバイル時代のアプリに相当するものがAI時代にはエージェントになるという。エージェントとは、プロンプト(命令)を与えられると、何をすべきかを自分で考えて計画し実行するAIツールのこと。ChatGPTに代表される今のAIツールは、言われた1つのタスクをこなすことしかできず、複雑なタスクを実行させるには、人間側でタスクを分解しなければならない。例えば「LLMに関する最新の論文を日本語に要約して」と命令したいのであれば、まずは「LLMに関する最新の論文を見つけてきて」とチャット型AIに命令し、次に見つけてきた論文を「要約して」と命令。次に要約されたものを「日本語に翻訳して」と命令しなければならない。こうしたステップを踏まなければ、求める答えが出てこない。

これがエージェントになれば、こうしたステップをAI自身が考えて順番に実行してくれるようになる。

単純な質疑応答にしても、今のチャット型AIだと、ある程度のクオリティの回答をすぐに返してくるのはすばらしいものの、内容が間違っていることもある。ところがエージェントになると、まずどんな答えを出すのか推敲し、次に関連するファクトを検索するようになる。集めたファクトをベースに回答文を執筆したあと、それを読み返して間違いをチェック。間違いがあれば修正して、最終回答を出す。こうしたプロセスを踏むことで、回答内容がより完璧なものになる。

こうしたエージェントの機能は、GPT-5などの次世代LLMの中には組み込まれるとみられているが、スタンフォード大学のAndrew Ng教授によると、今のLLMにもエージェントのプロセスを持たせることでかなりの精度の向上が見られるという。Ng教授はその手法についてX(旧twitter)などで詳しく解説し初めており、同教授の影響力を考えれば、今後エージェント機能の研究が急速に進歩ものとみられている。

モバイル時代のアプリは当初、スマホを傾ければ画面に映ったビールジョッキが傾いてビールが減っていく、というようなお遊びのようなものが多かった。

しかしその後、UberやInstagramなど社会に大きな影響を与えるようなアプリが数多く登場した。

これからいろいろなエージェントが登場し、中には社会を激変させるようなものも出てくることだろう。まだ日本では頭角を表すようなエージェントは出ていないが、英語圏ではHarvey(法務)、Abridge(ヘルスケア領域の文書作成)、TaxGPT(税務関連)、Sierra(カスタマーサービス)、Devin(プログラミング)などといったエージェントが頭角を現し始めた。

今後はこうしたエージェントを活用し、社長だけが人間で従業員は全員AIといったような会社も登場するのかもしれない。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファなどガザ各地を空爆 少なくとも

ワールド

G7エネ相、35年までの石炭火力廃止で原則合意 3

ビジネス

米ボーイングが起債で100億ドル調達、需要旺盛=関

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ停戦巡り協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story