コラム

日本で「ツタンカーメンのエンドウ」が広まった理由、調べました

2019年05月22日(水)19時20分

1986年、筑波で開催されていた科学万博で、日本の子どもたちが栽培したツタンカーメンのエンドウが、万博エジプト館のガミール・アリー・ハムディー館長に贈られた。エジプト人の館長ははたして何を思っただろう。同館長のお礼のメッセージには、引用符をつけてツタンカーメンのエンドウと記されているが、それがツタンカーメンの墓から発見されたことには触れていない。

ツタンカーメンの墓で発見されたと思って育ててきたのにと、がっかりする人もいるかもしれない。だが、せっかくこの豆をきっかけにエジプトに関心をもってくれたのならば、その関心を持ちつづけてもらいたい、と中東研究者としては切に願うしだいである。ちなみに、豆の味はおいしかったこともあらためて指摘しておく。

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ツタンカーメンのエンドウで作った豆ごはん(筆者提供)

[主な参考文献]
Henderson, B. 2005"William Plate, an Unknown Acquaintance of Karl Marx at the British Museum: A Biographical Sketch," Electronic British Library of Journal, 8:1-9
Hepper, F. N. 1990. Pharaoh's Flowers: The Botanical Treasures of Tutankhamun, London: HMSO
Moshenska, G 2017 "Esoteric Egyptology, Seed Science and the Myth of Mummy Wheat," Open Library of Humanities, 3 (1): 1
Zohary, D., Hopf, M. & Weiss, E. 2012. Domestication of Plants in the Old World, Oxford University Press (4th edition)
上地ちづ子1987『のびろ のびろ!ツタンカーメンのえんどう』耀辞舎
リズ・マニカ1994『ファラオの秘薬----古代エジプト植物誌』八坂書房

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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