コラム

研究者の死後、蔵書はどう処分されるのか──の、3つの後日談

2022年07月28日(木)17時00分
書籍

整理を依頼された大野盛雄氏(元東京大学東洋文化研究所所長)の蔵書の一部(筆者によるブログより)

<研究者だけでなく、マニアやコレクターからも、共感(?)の意見を多くもらった。書いた私はといえば、またまた蔵書整理で相談を受けることになった>

もう3年もまえのことだが、研究者の蔵書についてこのコーナーで雑文を書いたことがある(研究者の死後、蔵書はどう処分されるのか)。私の書いたものにしては珍しく、けっこう反響があり、いろいろなところから、読んだと読んだとの声を聞いた。

タイトルどおり、研究者の膨大な蔵書が、その主の死後どうなるのかという話を、私自身が関わった、とある著名な中東研究者の蔵書整理のケースを例に書いたものだ。研究者だけでなく、やはり膨大な収集品の行く末を憂慮する、いわゆるマニアやコレクターのかたも同じ悩みを抱えているとみえ、耳が痛いだの、つらいだの、また他人事とは思えないだの、共感(?)の意見を数多くいただいた。

後日談だが、結局、その研究者の蔵書の大半が、引き取り手がなく、古本屋さんに一括で買い取られた。だが、そこでもあまりさばけなかったようで、かなりの量が古書市に出ていたとの目撃談も届いている(ただし、これは私自身が確認したわけではないので、情報としてまちがっている可能性もある)。

もう一つ、後日談がある。私の文章を読んだかたから、すでに亡くなられた、やはり高名な中東研究者の蔵書について相談がきたのだ。

もともとの文は成功例ではないので、相談されても力になれるとは考えづらい。しかも、こちらの研究者は、まえのかたと異なり、高名ではあるものの直接教えを受けたわけでもない。それこそ面識すらなかったのだ。

とはいえ、乗りかかった船、これも何かの縁だろうと、まずは実際に蔵書を確かめてみることにした。なお、蔵書の主は2001年に亡くなられた大野盛雄さんである。長く東京大学東洋文化研究所でイランの農業を研究され、同研究所の所長も務められていた。

1979年の革命前の統計や革命前後のパンフレット類など

大野蔵書中、ペルシア語・トルコ語の文献については東大中央図書館が引き取ってくれることが決まっているらしかったが、それ以外の洋書・和書の大半は廃棄処分が決定していた。しかし、欲しい本があれば、無料で引き取ってもらいたいということで、ご遺族・関係者含め、了解が得られており、廃棄処分となるかもしれぬ蔵書は東大総合博物館の植物研究室に一時的に保管されることになった。

私が蔵書を見にいったのはこの段階である。上述のように、ペルシア語やトルコ語の本はなく、和書と英語にわずかながらフランス語の本も含まれていた。

私とは専門が異なるので、目ぼしい本はほとんどなかったが、1979年のイラン・イスラーム革命前の統計や革命前後のパンフレット類など、今ではなかなか手に入らなそうなものも含まれていたので、それなりに関心をもつ人もいるのではなかろうかと考えた。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「状況は正しい方向」 利

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story