コラム

暴露が続くアメリカ政治――ロシアが仕掛ける「情報攻撃」

2017年01月14日(土)11時00分

ハイブリッド戦争とポスト・トゥルース

 ロシアは2008年のジョージア(グルジア)や2014年のウクライナをめぐる問題では、軍を動かすと同時に情報攻撃を展開した。こうしたやり方を北大西洋条約機構(NATO)の専門家たちは2011年頃から「ハイブリッド戦争」と呼ぶようになっている。2016年1月には難民問題に揺れるドイツで、ロシア系のドイツ少女が移民に暴行されたとする報道があったが、これもロシアによる偽情報の流布であり、ウクライナ問題で反ロシアの姿勢をとるドイツのアンゲラ・メルケル政権への揺さぶりだったと考えられている。

【参考記事】ロシアがドイツに仕掛けるハイブリッド戦争

 昨年の米国大統領選挙でも、出所不明の偽情報がたくさん出回り、ソーシャル・メディアで拡散された。ロシアは「トロール」と呼ばれる人々が食いつきやすい偽の「釣りネタ」を流し、大統領選挙を混乱させようとしたと考えられている。

 メディアが真実(トゥルース)を報道する時代は終わり、ポスト・トゥルースの時代が来たとする指摘も行われるようになっている。これまでは新聞やテレビで放送されることのなかった裏話や噂話がどんどんネット上に出てくるようになっている。そうした情報が真実ではないと否定するのはかなり難しい。

 これほど多くの人がインターネットを使っていれば、情報は、漏れる、伝わる、広まる。そもそも人はおしゃべりである。他人の秘密を知ると話したくなる。隠しておきたいはずの自分の秘密でさえ漏らしてしまう。政府が秘密の仕事をしていることに気づくと、それを暴くことが正義にすら思えてくる。私たちはすでに暴露の世紀を生きている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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