コラム

IoT(Internet of Things)の次、IoB(Internet of Bodies)への警告

2017年09月28日(木)18時30分

Fabrizio Bensch-REUTERS

<米国のシンクタンク、アトランティック・カウンシルが、IoB(Internet of Bodies)についての講演とパネル討論を開催した。既に目の前にある危機への警告>

映画『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役で人気を博した女優エマ・ワトソンが主演する映画『The Circle』では、フェイスブックをイメージさせるソーシャルネットワーキングサービスがテーマである。

この映画の中で、体内のデータを集めるためのジュースを主人公が飲まされるシーンがある。詳しい仕組みは明らかにされていないが、ジュースが何らかのセンサーの役割を果たして、体調をモニターし、体外にデータを送信するという仕組みらしい。


こうした次世代のセンサーや医療機器などによって身体をつなぐことはIoB(Internet of Bodies)と呼ばれる。あらゆるモノがつながるというIoT(Internet of Things)のもじりである。

IoB(Internet of Bodies)への警告

2017年9月21日、米国ワシントンDCのシンクタンクの一つ、アトランティック・カウンシルが、IoBについての講演とパネル討論を開催した。

講演を行ったのはノースイースタン大学で法学を教えるアンドレア・マトウィーシン教授である。彼女は技術エバンジェリストではなく、法学者である。そのため、IoTの次に来るIoB技術礼賛ではなく、むしろ、IoTがもたらすリスクについて語った。

彼女のIoTの定義は、身体に物理的な危害をもたらすソフトウェアである。すべてのソフトウェアのコードは人間によって書かれる。間違いは起きる。IoTなら事故で済むかもしれないが、IoBなら人間の死に関わる倫理的な問題だというのが彼女の指摘だ。

マトウィーシン教授はIoBの三つの段階を設定する。第一に、「定量化」の段階で、Apple Watchやfitbitのように身体にデバイスを身につけることで心拍や運動量といった計測を行う。第二に、「体内化」の段階で、ペースメーカーのように体内にデバイスを入れて何らかの機能を持たせることである。これからも機能の進化はあるだろうが、ここまではすでに実現されている。

第三の段階は、「ウェットウェア」といわれる段階で、脳に何らかのデバイスを接続する。ウェットウェアとはハードウェアやソフトウェアというドライなものに対して血が流れる人間の頭脳を意味する言葉である。アニメ『攻殻機動隊』や映画『マトリックス』の世界を実現化するものといえるだろうか。

Googleグラスが工場内で使われていたり、米国防総省がスマートスーツを開発していたり、SONYが見たものすべてを記録するコンタクトレンスの特許を取ったりするといった動きがすでにあるが、ウェットウェアの段階まで進んだ例はまだないだろう。

しかし、マトウィーシン教授は、バグの多いソフトウェアと調子の悪い身体が組み合わされば、物理的な危害につながると警告する。したがって、米国連邦取引委員会(FTC)、米国食品医薬品局(FDA)、米国連邦通信委員会(FCC)などが規制をする必要があるともいう。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story